第9話 ヒーローは遅れて【改稿】

「――――!?」


透明化を前提とした相手の意表をつく剣技だと思い込んでいた私は、それに驚きながらも対応するべく剣を構え、攻撃に備える。


そして、その一秒後――金属がぶつかる音が響き渡り、剣と剣が交差する。

その瞬間、衝撃が私の腕に伝わり、思わず息を詰めた。

無影の剣客――彼女の一撃は見た目以上に重く、鋭い。


それは明らかに他の剣士のそれとは一線を画していた。

透明化に頼っているだけの剣だとばかり思っていたが、こうして打ち合ってみて初めてわかった。


彼女の剣は確かに鍛え、日頃から研鑽を積んでいるものであるのだと。

間違いない、断言出来る。

このまま現剣の力を引き出さなければ、私は負ける死ぬ!!


「ふふっ、強いわぁ貴方。でも、これはどう?」


刹那、無影の剣客の姿が消える。


「ッッ、――――!!」


至近距離での透明化によって、風の流れを把握する前に直感で防ぐ事を余儀なくされる。

右か左……それとも前――――――――――――。


「残念、上」


刹那、私の体が胸からお腹の辺りまで一直線に切られる。

しかし、刀が振り落とされるその一瞬の前に私は背中を逸らし体を少し後ろにずらしていた為、薄く切れる程度の傷で済む。


「あら、これも対処されちゃうの?じゃあ――」


その瞬間であった。

恐らく、剣の軌道を一瞬で変えたのだろう。

私のお腹が、横一文字に裂けた。


「か、あッ、――――――」


今度の傷は、深い。

少なくとも、一瞬怯んでしまうくらいの激痛が走る。


「追い打ち」


その言葉が聞こえるのと同時。

私の腹が、思い切り蹴られ少し飛ぶ。


先程のを遥かに超える激痛が全身を支配する。

口からは血が飛び出て、想像以上のダメージを負ってしまった事は明白であり、私は思わず地に伏してしまった。


「「お姉さん!!!!」」


子供達の涙ぐんだ心配の声が私を呼ぶ。

これだけの傷を負ってしまった私は、もう立ち上がれない。

申し訳なさしか浮かばない。


「やっぱりいいわぁ、人気のない公園は。路地裏なんてジメジメしてて狭い場所なんて、剣を振り回していれば私に当たっちゃうもの。でも、ここは違う。広いからこそ当たらない、広いからこそどこから来るのか分からない!!」


大層興奮している様子を見せながら、無影の剣客は私の苦痛に満ちた顔を見下しながら言葉を続ける。


「いいわねその顔。アタシはね、そういう苦悶に満ち満ちた表情を浮かべる可愛い子が大好きなのよ。他の人も良い顔を浮かべてくれたけど、貴方は最高級ね。あ、ちなみに一番はアレね。アタシの透明化を使ってね?少し放置した時があったのだけれど、攻撃が止んだ、逃げた、今が引き時!!……そう思って逃げようとした人間を斬った時のあの表情かお。アレは最高ね」


あぁ――なんて悪趣味なんだろうか。

聞いているだけで、不快感と嫌悪感で胸がいっぱいになりそうだ。


「さて、貴方の死に顔は一体どんなのかしら?」


そう言って、無影の剣客はゆっくりとその剣を天高くまで振り上げる。

きっと、このまま彼女は躊躇う事なく振り下ろすだろう。

みんな、守れなくてごめん……と、霞む視界の中そんな事を思う。


「お、お姉さんを殺さないで!!」

「これ以上やったら許さない!!」


その時、後ろに居るはずの二人の子供が、今度は私の前に振るえる足で立っていた。

まるで、私を庇うように両腕を横に広げながら。


「あらぁ?そんなに殺さないでほしいのぉ?なら、そうね――」


ふふふと歪に笑った後、彼女はその信じられない一言を口にする。


「なら、君たち二人で殺し合いをしなさい。そしたら、この子は殺さないわ」

「え…………」


その言葉を聞いて、男の子が困惑の声を上げた。

嘘。100%嘘の言葉だ。


透明化の能力のおかげで実態が掴めていないかったからこそ、彼女は活動が出来ているというのに、わざわざ顔を見た人物を生かしておくメリットはない。


「そんなの、出来るわけないでしょ!!」


男の子とは打って変わって、女の子の方は怯まず告げる。


「あらそう、残念。じゃあしょうがないわ。庇われるとなると邪魔だから、先に君達から殺すしかないわね」


その言葉を聞いた瞬間。

私の霞んでいた視界は急激に戻り、沸々と怒りが湧いてきた。

それと同時に、溢れ出すのは強い意思。


こんな奴をもうこれ以上、この学園都市に居させてはおけない。

コイツをもうこれ以上、一秒たりとも絶対に生かしてはいけない。

自由にさせてはおけない。


絶対に勝たなきゃ。

コイツを――――倒さなきゃ。


立ち上がらないと、立ち向かわないと。

このままじゃ、あの子達も殺される。

そんなのは絶対に、絶対に認めない。認められない――!!


「それじゃあ。さようなら」


――刹那、子供達に向かって剣が振り下ろされる。

その瞬間はどうしてか、私にはスローに見えていた。


なんで、どうして、なんで、動いて、動かなきゃ――――!!

どうしよう、あの子達が殺される、動かなきゃ、守らなきゃ!!誰か、誰か、だ、れか………………。


「よく頑張ったな、燈。そして少年少女達よ」

「え…………」


その時、一人の男性の声が、姿が私達の傍に現れたかと思えば――次の瞬間には、目にも止まらぬ速さで無影の剣客に向かって蹴りを繰り出していた。


「ガッッッッ――――――」


突然の出来事。

これには、流石の彼女も対応出来なかったらしく、腹に大層な一撃を食らい吹っ飛んでいったが――蹴りなだけあって、致命には至らない。


「はぁ、はぁ……ッ。どちら様、かしら?」


腹を抑えながら問いかけられたその質問に答える事無く、男の人は彼女を睨みつけながら怒りを露にした声色で告げる。


「お前さ、何やってくれてんだよ」

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