第6話 一体どこへ

「は~~~。とんだ無駄な会話だったわ」


天崎が長々としたため息をつきながら頭を抱えて呟く。

いや本当、マジで申し訳なさすぎて謝罪の言葉以外の言葉が出ない。


「本当に申し訳ない……で、でも!!これから燈を探せばなんとか――」


なんとかなる。なんて何が?とでも返されそうな言葉を言い終わる前に、天崎がはっと鼻で笑いながら口を開き始める。


「探す?どうやってかしら?もしかして、貴方のその腰に携えた現剣には特定の誰かを探せるだとかそういった能力があるというの?」


――現剣には、その人個人の意思で発動の可否を決める事が自在に出来る超常的な力が宿っている。


人によって多種多様な能力の種類があるが、例えば火種の無い所で火を起こす事が出来たり、風の無い場所で風を起こす事が出来たり、氷山の一角のようにそびえ立つ氷を生成する事だって可能だ。


しかし、それらの超常的な力を使用するには現剣を顕現させているという事が前提となるが――――例外は存在する。


「無いな。うん。無い」

「うっざ」


キモイの次はうざいかよ!?

殺す、キモイ、うざい……彼女とは出会ってまだ一日目だが、これで殆どのメジャーな悪口はコンプリートしたのではないだろうか?

後は口臭い、体臭キツイとでも言われればフルコンプリートだろう。


「これ以上は時間の無駄ね。それじゃ、私は先においとまさせてもらうわ。さようなら」


さようならだけやけに強調した言い方をしながら、天崎はその長い髪を靡かせながらそそくさと教室から出て行ってしまった。


完全にコチラの失態である為、彼女を呼び止める言葉は出ない。

その為、俺はただただ去り行くその背中を眺める事しか出来なかった。


「…………はぁ、にしてもどこにいっかなぁ」


燈とは、関わった時間を合計して考えたとしてもまだ1時間も経っていない。

その為、彼女が未だどのような性格なのか、どのような場所に行きそうかなんて事は俺に分かるはずが無い。


……いや、だが待てよ?人はとんでもない失態を犯してしまった時、どんな行動を取りたいと思うんだ?友達に愚痴を聞いてもらったりとかか……?


恐らく、彼女は放課後が訪れるなりそそくさと教室から出て行ったはず。

一早く事の顛末を友達に話して慰めてもらいたかったからと考えればその説は納得が行くが……しかし、こうも考えられるだろう。


この自分自身が失態を犯してしまったという居づら過ぎる現場から逃げ出す為に、誰よりも先にどこかへ消えてしまったのではないかと。


という事は、うむ…………よく分からん(思考放棄)

まぁいい。どこかへ行ってしまったというのなら、手あたり次第に探してみるしか選択肢はない。


そして友達に慰めてもらいに行ったという説もあるわけだから――ついでに、稲刹燈という名前を知る人物も探してみればいいわけだ。


もし一人だったとするのならそのまま俺がフォローしてみればいいし、友達に慰められているのならそれはそれでよかったよかったで済む話であるわけだし。


「さぁ男玄斗、ここはいっちょ一肌も二肌も脱いじまいますか!!」


先ずは寮にでも赴いてみよう。

そうしたら、後はカウンターに居るであろう人に燈の名前を出してこの場に来たか否かを聞けば良いわけだし。


「いや待て。外に出る前に先に他の一年の教室内をチェックだな。もしかしたら燈が他のクラスの友達と教室で会話している可能性もあるし」


流石に上級生に友達が居るという可能性は切り離そう。

そこまで確認するとなると割とマジで時間がかかりすぎる。


そんな事を思いながら、自らのクラスを飛び出し廊下へと足を踏み出す。

ちなみに、今の今までクラスの誰からも話しかけられないかったぞ。おかしいな。


この摩訶不思議と言わざるを得ない奇怪な現状に疑問を持ちながら、俺は他の教室内を確認しに歩を動かそうとした――その瞬間だった。


「貴方様の探し人は、西側に位置する夕凛せきりん公園に居ますよ」


一つの思わず国宝認定したくなるロリボが、俺に耳打ちでもしたのかという程に至近距離からクリアに入ってくる。


「…………マジかよ」


既にどこを見渡しても声の主らしき人間は見当たらない。

白い髪に緑のメッシュが入り混じった髪色をしている事は見えたが、それ以外は急すぎてさっぱりだ。


正に神速と言わざるを得ない。

この場には、一人の少女が確かに俺の横を通って、確かに俺の耳に口を近づけて、確かに言葉を発したという事実だけが、まるで置き去りにされたかのように残っていた。


考えるまでも無く分かる。

今のは――この学園に居ると噂の剣聖だ。

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