第3話 友達作り、それは一筋縄ではいかないもの
昇降口のガラス張りされている入り口に大々的に張り出されていたクラス割り当てを確認する用紙を一見し、教室へと向かい、入学式という真の意味での学園生活のスタートの合図を告げる儀式を終え――遂に、この時がやってきた。
「友達を作らねば……!!」
ゴゴゴゴゴとでも効果音が付きそうなオーラを醸し出しながら(妄想)俺は自分の机に肘をつきながら顔の前で腕を組み、品定めをするかの如くクラス全体を眺めながら呟いていた。
俺の席は窓際の一番後ろという、どこかテンプレ味を感じる使い古されたような場所である為、このクラスの様子はよく分かるわけだ。
いやはや、日頃の行いが聖人君子レベルに良い俺だからこそ、この場所になったに違いない。
――しかし、様子を眺めているだけでは友達は出来ない訳で……結局の所、自分から話しかけに行ったり、あるいはこれから始まるであろう先生が主催する生徒全体の自己紹介で印象に残るインパクトのある名乗り方を行うしかないわけだ。
誰か話しかけてきてくれるかも知れない――だとかいう受け身なままの姿勢では、真に友達という存在が出来る確率は限りなく低い。
何故なら、自分から話しかけに行くような社交性の高い人間は自分以上に親しい仲の人間をいつの間にやら作ってしまうからだ。
そして、わざわざ親しい仲でない人間と関わる事はあまり無くなっていくわけで……最早あれ友達にカウントしていいのか?なんて存在になる事は避けられないわけだ。
そうでなくとも、社交性の高い人間はクラスの人気者、中心になる確率が高い。
故に、その人の周りにはいつも人だかりが出来てしまい、話しかけて仲を深めに行こうと腰をあげても中々話せない……何て事が多発する筈なのだ。いいや絶対に多発する!!
もし本当にクラスの人気者と仲を深めたいというのなら、どうにか連絡先を交換し、そこはかとない会話を続ける事によって焦らずじっくりと、徐々に徐々に仲を深めるという手も考えなくてはならない。
なお、連絡先の交換にありつけるまでの手段は考えない事にする。
――――なんて事を考えている間にも、行動を起こしている者は着々とその存在をこのクラスに示していた。
「君、連絡先交換しない?俺、友達作りたくってさ」
爽やかなイケメンと言った印象を受ける男が、俺の目の前に座る……いや待て?あの限りなく黒色に近い紫髪ロング……今朝見たぞ??
「しないわ。親しくも無い人間と連絡先を交換するのはメリットよりもデメリットの方が大きいもの。というより、友達を作りたいのなら私の裏に居る彼に話しかけてみたらどうかしら?きっと、すぐ連絡先を交換してくれるわよ?」
うん、あの喋り方完全にバスの中で話した紫髪ロングちゃんだ。
何で気づかなかったんだろう、俺の目って本当に海外のライフハックなるものより遥かに役に立たない飾りなのか?てかさりげなく俺を盾に使用するなよ。
「僕は君と交換したいんだけどな~」
あははと爽やかな笑顔を浮かべながら、ちゃっかり貴方の事を気になっていますと言っているようにしか聞こえない言葉を発す男に、紫髪ロングちゃんは「はあ」とため息をつく。
「なら残念な話ね、私は交換したくないの。もし交換したいのなら、それ相応の実績を示しなさい。私の興味を惹く程の実績をね」
……とはいえ、俺と話をしたときよりかはマイルドな対応になっているような気がする。やはり顔なのか?顔なんだな!?
「君の興味を惹く実績って何かな?」
「そうね――例えば、剣聖の称号を持っている人間とか、かしら」
剣聖……確か、常人では絶対に目で追えない神業の域にまで達した剣術と、その身一つで一国と争える程の力を有し、国家転覆も国を消す事さえも容易に実現出来る――正に天上の力を持つ存在の事を言うんだったか。
「それはちょっと難しいんじゃないかな?大人ですら数人としか居ないのに、学生で剣聖なんて称号を持っている人物なんて、この世界のどこを探しても――一人しか居ないじゃないか」
えちょっと待て??居るの?学生で剣聖なんて存在が??
「そう、私は彼女以外興味無いの。
しかもこの学園に居るのかよ!?え?一国と争えるレベルの人間が学園で何してるの?もしかして雑魚狩り?だとしたら相当性格に問題あるヤベェ人間じゃね??
「……そっか。君の意思は固そうだ。ここは一旦身を引くとするよ」
そう言って、イケメンは踵を返したのだが――「もしかして」と前置きをし、その足を止め、告げる。
「
「――――ッ!?どこでそれを!!」
まるで彼女の何かを知っているかのように意味深に告げたイケメンは、そのまま他の生徒の元へと向かって行く。
「イケメンからの誘いを断ってよかったのか?天崎詩音さん」
今朝は知る由もなかった彼女の名前を強調するように言いながら、俺は驚きの表情を浮かべる彼女に話しかけていた。
「それは私への宣戦布告、嫌がらせと捉えていいのかしら?殺すわよ」
「滅相もございません」
俺はコンマ一秒にも満たないうちに謝罪(?)をした。
人生で初めてだ、俺からこれだけ早く謝罪を引き出した人間は。
「にしてもアンタ、剣聖に成りたいのか?」
「剣聖なんていう称号はどうでもいいわ。私はただ…………――――」
そこから先の言葉を引き出す前に、チャイムがこの学園中に響き渡った。
それと同時に、このクラスの担任が引き戸をガラガラと音を立て開き、顔を出す。
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