第2話 初めての出会い、初めてのトキメキ、可愛いお友達できた

結局、彼女の名前を知る事なく、バスは無事目的地に到着してしまった。

――風月天戦学園ふうげつてんせんがくえんと名付けられた、エリートだけが集う名門校と呼ばれる場所の手前に。


目の前には今、絶対こんなスペース要らないだろとツッコミたくなるような広々とした白い門が佇んでいる。


恐らく金が有り余ったんだろうな。

羨ましい限りだ。


――――ちなみに、あの紫髪ロングちゃんは目的地につくなりそそくさとバスから降りて学園の中へと足を踏み入れていった。


悲しいかな、案外一緒に談笑でもしながら校内へと足を踏み入れる事が出来るのではないのかと淡い期待を持っていたが、それは本当に淡い期待だったようだ。


「あ、あの!!」


いざ始まる学園生活に胸の高鳴りを覚えながら、一歩踏み出そうとした時だった。

おどおどとした声が、俺の背中にぶつかってきたのは。


「はん?」


流れるように後ろを振り向き、声の主を確認する。

するとそこには、この学園のクリーム色を基調とした制服と赤いネクタイをビシッとつけ、自身が高校生である事を主張している一見中学生ぐらいの背をした銀髪の女の子が立っていた。


「おお、良い髪形だな。確かボブって言うんだったか?」

「あ、どうもありがとうございます…………って嬉しいですけど!!」


腕をぶんぶんと上下に振りながら、ぶーぶー言う少女。

その挙動は小動物のような愛らしさと守ってあげたくなる庇護欲が掻き立てられる。


「あなた、どうして現剣しているんですか!!法律違反ですよ先生方にバレたら退学ですよ!!補導されちゃいますよ!!」


おっと、どうやら俺の事を心配してこの子はわざわざ言ってくれているらしい。

なんて心優しい良い子なんだ、先ほどの紫髪ロングちゃんとはえらい違いだ。

この世の中もまだまだ捨てたもんじゃないな。


「せっかく教えてくれたのに悪いが……コイツは特殊な現剣でな。消えないんだ」

「消えない……ですか?」


俺が告げたその言葉に、分かりやすく頭にはてなを浮かべながら復唱する少女。

……いやマジで一つ一つの挙動が可愛らしすぎるんだが。そうだよな、これが最近のJKだよな、あの紫髪ロングちゃんがおかしかっただけだよな。


「ああ。だから、コイツは特別扱いでな、この学園も都市も承認してくれてるから心配要らんぞ」


……そう。この剣は、絶対に消えない。

例え新醒が尽きようと、現剣させた本人が亡くなっていようと――まるで呪いのように、消える事は無いのだ。


「おっそうだ。アンタとここで会ったのも何かの縁だ。てわけで、自己紹介でもしようぜ。ついでに友達にもなってくれよ」


悔いのない学園生活を送る為に、友達という存在は必要不可欠である。

それも、こんな可愛い女の子と関われるというのなら毎日が華やかになる事間違い無しなのだ。


「俺の名前は徒篠玄斗あだしのげんと。玄斗で良いぞ。趣味は悔いのない学園生活を送る為に奔走する事とドーナツの真ん中に空いた穴の中から絶景を眺める事だ」

「それ絶対嘘ですよね!?」


いや、本当なんだけど。


「え、えっと、私の名前は稲刹燈とうせつあかりです。私も燈でいい……です。趣味はお菓子作りです。でも、最近初めたばかりなので上手いわけではない……です」

「おぉ良いじゃねぇか!!今度ドーナツ作ってくれよ。エン〇ルフレンチ」

「難易度高い……!?」


そんな雑談を交わし仲を深めた後、俺はゆっくりと歩きだし、燈に告げる。


「んじゃ、そろそろ校舎に行こうぜ。初日から遅刻は嫌だろ?」

「そうですね」


そうして俺達は、肩を並べながらゆっくりと校門を潜り抜けていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る