無銘の剣聖は学園生活を謳歌したい!〜かつて学園都市の危機を救った名も無き剣聖って、もしかなくても俺じゃね?〜

@Nier_o

第1話 朝、バスの中で

――突然だが、俺は皆に問いてみたい事がある。

皆は、悔いのない学園生活とは一体どのようなものなのか。とそう問われた時、一体どのような回答をするだろうか。


例えば、友達を沢山作って毎日を賑やかに過ごすだとか。

それとも、恋人を作って人生に彩を加えるだとか。

部活動に精を入れるだとか、バイトを頑張って社会経験と金を積むだとか。

将来、自分がしてみたい職業に就く為に勉学に励むのだって、立派な学園生活というものの一つなはずだ。


しかし、今上げた回答はほんの一部に過ぎない筈だ。

人の数だけ人生があり、想像も出来ないような信じがたいドラマがある。

悔いのない学園生活というのは人が存在し生きている限り無数に広がり、存在しているわけだ。


そう思うと少し、面白いだろ?


「…………初対面、それもたまたま乗り合わせた人間に言いたい事がそれかしら?」


凛としていて高圧的な声。

しかし、そんなマイナスをひっくり返す程に美しい限りなく黒色に近い紫髪ロングの美少女が、その毒気を感じさせる紫色の瞳の形を蔑みに変え告げる朝のバスの中。


「わざわざ俺の隣に座ったって事は、話し相手になってくれるんじゃないかと思ったんだが……まさか、違ったというのか?」


驚愕の表情を隠さずに言葉を発す俺に「はぁ」と呆れた様子のため息を返す美女。

出会って早々、このようなうら若き女性に呆れられたという事実は、俺が体験した濃い人生エピソードの内の一つに加わる事間違い無しである。


「貴方のその眼は海外のライフハック動画よりも遥かに役に立たない飾りなのかしら?」


その例えはよく分からんがとにかく罵倒されている事はわかるぞ、うん。


「この席以外に空いている席は無かった。だから、仕方なく貴方のような有象のように存在する何の特徴も無い男の傍に座ったの。というより、他の席が埋まるまで貴方の隣には誰も座らなかったのね、可哀想に」

「新視点からの蔑み!?世界で初めてだろそんな罵倒した奴。てか随分とツンケンしてるんだな、最近のJKってのは。皆こんなもんなのか?」


今をトキメクJKが皆このような傍若無人のような人間性を有している……うむ、そんな話怖すぎて考えたくも無いな。

しかし、この美女は亭主関白なんて言葉がよく似合いそうなお方になりそうだ。

亭主関白は夫を指す言葉だけど。


「今、貴方から私に対する大変不名誉な考えを察知したわ。セクハラとして訴えてやろうかしら」


どうやら女の勘なるものが発動して俺の考えが透けて見えてしまったらしい。

こうなっては仕方がない、どうせ捕まってしまうのなら最後に夢を叶えよう!!


「捕まる前に胸揉んでいいか?」

「殺すぞ」


おっと、殺気が凄い。マジで殺されそうだ。

この迫力は野生の熊すら戦う気を失って獲物を狩る術すら忘れて生きるのを諦めてしまいそうな程だろう。


「……貴方の事が少し分かったわ。言っていい事と悪い事の線引きが出来ないコミュ障人間。常識と良識を真っ先に学んだ方がいいクソ野郎――といった所かしら」

「俺達似た者同士じゃん」

「残念、私は普通よ。ただ悪く言っていい人間と普通に対応する人間を選別しているだけ」

「普通の人間は選別なんてしないと思いまーす」


仲の悪い人だったらそりゃ対応もまた変わってくるかもしれんが……最初から人を選別するとか滅茶苦茶激レアな思考持ってね?


「そうかしら?今の時代、関わる人間を選別する人は多いと思うわよ。ちなみに、私の基準は興味が無いか興味があるか、強者なのか弱者なのか――興味があればそれ相応の対応をするけれど、興味が無ければ関わりを自ら断つの。そうでなくとも、弱い人間には興味が無いわ」


目を閉じながら、変わらない凛とした声で意気揚々と説明をする美女。

うむ、冗談とかではなく心の底から本気で言っているのが伝わってくる。


「そうか。なら、アンタの目に映る俺は興味深く見えるか?」


何気なく、そんな質問をしておく。


「そうね、今までに類を見ない面白い思考を持った頭のネジが外れた面白い人間だとは思うわ」

「褒めてくれてるって事でいいんだよな、ありがとう」

「そのポジティブに偏った思考、羨ましいわね。学びがあるわ」


なんて言葉を発した美女が「所で」と一言前置きをし、俺の腰に納めている剣に目をやる。


「貴方、常に現剣げんけんしているの?」

「ん?あぁ、これか?」


彼女の視線の先に映っているであろう漆黒の鞘に包まれた剣を、片手で軽く持ち上げながら、俺は言葉を発す。


――――事の始まりは、江戸時代かららしい。

突如として、人の体に新醒しんせいと名付けられた体中に巡る血液とは別に流れるオーラのような物が宿ったのは。


その新醒しんせいと呼ばれるオーラのような物には、摩訶不思議な力があった。

人の意思に呼応して、その者の剣となるという力が。

その現象を、人は現剣げんけんと名付けたのだ。


「まっ、そんな所だ」

「答えるつもりはないってわけね」


…………そりゃあ、現剣げんけんしている間は新醒しんせいを徐々に消費するからな、それこそ新醒しんせいを無尽蔵に有している人間でも居ない限り常に現剣げんけんするヤツなんて居ないだろう。


「ちゃんとした答えだよ。所で、そろそろ自己紹介しておかないか?」

「少なくとも、貴方に名乗る価値はないわ」

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