流行りの祠ネタ

ノエ丸

流行りの祠ネタ

「お前!あの祠を壊したのか!?」


 目の前に居る近所の爺さんが、そう怒鳴りつけて来た。


「何か問題でもあるんですか?」


 別に壊したくて壊した訳ではないのだが——。


「なんちゅーことを!

 お前さんはもう助からんぞ!」


「——はぁ」


 そんな。

 よくあるホラー小説みたいな展開ある訳ないじゃないか。

 誰も手入れしてない様な、古ぼけた祠が壊れた所で何も無いだろうに。


「近い内に、お前は死ぬ。

 ワシらではどうにもならんぞ——」


「お、それはいいですね~」


 俺は近所の爺さんの話を聞き上機嫌になった。


「——なんちゅうことを!

 ええい!

 ワシは知らんぞ!」


 そう言って爺さんは何処かへ行って知った。


「言うだけ言って居なくなりがって——」


 俺は誰ともなしに呟く。


「——帰ろ」


 そのまま俺は自分の家に向けて歩き出した。


 ◇


 リーンリーンと虫の声が聞こえる。

 夏も終わり、少し肌寒くなってきたな。

 今年の夏は暑すぎだ。


 虫の声を聴きながら畦道を歩いていた。


 すると後ろから不意に。


「〇〇君?」


 俺の名前を呼ぶ声がした。


「あん?」


 声のする方を振り向き、誰なのか確認する。


「おお!

 □□□じゃないか!」


 そこに居たのは、都会に引っ越していった□□□だった。

 親の都合で急に引っ越してしまったので、別れの言葉も伝えられなかった。


「いつ戻って来たんだよ?」


「いつって。

 ついさっきこっちに付いてね~

 少し散歩してたら〇〇君見つけたから」


「そうなのか」


 俺は□□□に近づき、その姿を確認した。


「少しやせたか?

 都会の料理が合わなかったのか~?」


 そんな軽口を叩き、揶揄からかう。


「元から痩せてますー。

 そっちこそ、私が居なくなって、寂しくて食欲無くなってんだじゃない?」


 彼女は朗らかに笑いながら、そう告げた。


「うんなわけねーだろ。

 何時もお代わりしてるっつーの」


 久しぶりの再会に、そんな他愛のない会話をしていた。


「あ、そう云えばさ。

 さっき佐々木の爺さんとすれ違ったんだけど。

 祠がどうとか言ってたけどあれなに?」


「ん?

 ああ、山の中腹にある祠あるだろ?

 それ壊したんだよ」


 俺は自分のしたことを隠すことなく伝えた。


「え!??

 あの祠壊したの?

 なんで!?」


 案の定。彼女は驚いていた。


「言いじゃん別に」


「よくない!

 ねえ、何で?」


 彼女が俺に詰め寄って来た。


 俺は一つため息を吐き、理由を説明した。





「他の連中が、お前を見殺しにしたからだよ」




 そう、目の前の彼女は1月前に死んでいる。


「なんで?」


 表情を無くし、ガラス玉の様な瞳で俺を見つめる彼女がそう告げた。


「だから今言ったろうに。

 お前を見殺しにしたからだよ。

 それ以外の理由はねーよ」



 俺の住む村には言い伝えがある。

 何十年かに一度人身御供を、その地に住む神に差し出すというもの。

 彼女の家は代々その神を祭り奉る一族だった。


 そして、今年がその何十年かに一度の年だった。


 彼女はそれを受け入れていた。


 ——でも俺は。


 それを受け入れる事が出来なかった。


 ——その儀式が終わるまで。

 俺は村の大人達の手によって、身動きが出来ない状態にされていた。

 なぜ彼女じゃなければいけないのか。

 俺が変われるのなら変わりたかった。

 この思いも告げる事が出来ずに——。



 ——彼女は死んだ。



 両親や村の人間は仕方ない事だと、俺を論した。


 俺は——。

 彼女の為に何が出来たのだろうか。

 彼女が死ぬと分かった時、なぜ一緒に逃げようと言えなかったのか。

 俺は——本当に彼女の事を思っていたのか。


 彼女が死に。

 1ヶ月の間。自問自答を繰り返していた。

 その答えは出た。




 俺も彼女の元に逝けばいい。



 それならやる事は簡単だ。

 件の祠を壊し。

 中に居る奴を引っ張り出せばいい。

 俺が彼女の元に逝けるように。


 そして今。

 目の前に居る彼女は、悲しい顔を浮かべていた。


「私はね。

 〇〇君には生きていてほしかった。

 だから、死ぬのも受け入れられた」


 それが彼女の思い。


「俺は。

 □□□と一緒に居たかった。

 だから、お前が死ぬのは我慢できなかった」


 これが俺の思いだった。


「いいの?

 私達以外も一杯死ぬよ?」


「構わない。

 君を見殺しにするような連中だ」


「そう——」



「なら


 貴方だけは 


 殺 サ ナ イ デ ア ゲ ル 」



そう言った彼女の姿は、グニャリと崩れ。

四肢は真逆に折れ曲がり。

肌の色は黒く、およそ人の形を保たない。

別の何かへと変貌していった。


彼女とは似ても似つかない、目の前のソレが言う。


「アリガトウ。


ワレヲ、カイホウシテクレテ


アハハハ

  ハハハ ハハハハ 

 ハハハ

           ハハ」






そうして俺は、村で唯一の生存者となった。

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