第10話 ただいま!

回想


 なんとかタルタロッサを撃破した一行。

そのあとセロはナグノレアの治療もあり、後遺症もなく完治した。


 また、彼女との戦闘により壊された建造物はすぐに修理されたが、ソフィアの焼き焦がした路地裏は少々手痛い修理費を請求されてしまった。


 途中で目を離したダメダメなリナさんは団員全員からのお叱りを受けたという。ドンマイ。



「まあ、無事でよかったにゃんね」

「穴ってふさがるんだね」


 真っ白なベッド。そこには猫。正確には猫ではなく人だ。


 整列されたベッドの三番目に仰向けの自分。電灯が眩しいので手で隠す。手の擦り傷が治っていた事にそこで気付いた。


「魔法ってすごいね」

「魔法じゃにゃいぜ?魔術にゃ」


 魔法と魔術は違う。魔法陣を使うのが魔法。使わないのが魔術だとにゃんこが教えてくれた。


「魔法の方が難しいにゃ。線の正確さや理論が完璧でないと発動しない」

「ようはじょーきゅーしゃ向けってこと?」

「そうなるにゃ」


 二股の尻尾で丸を作るナグノレア。器用なもんだ。


「一つ聞きたいことがあるんだけどいい?」

「分かることにゃら」

「僕もう完治してるはずなんだけど…なんで病院に?早くみんなと会いたい」


 人さし指であごをトントンしながら首を60度傾ける彼女。


「にゃんといいますか〜…」

「?」

「君の体、ちょっとおかしいんだにゃ」


 おかしい?褒めているのだろうか。


「おかしいというかキモい」


 ひどい!


「きみ、がないの」

「魔力のう?」

「簡単に言うと心臓」

「死んでるの僕?!」

「にゃはは。冗談ではあるけど、武人としての心臓であることに違いはにゃいけど」


 魔力のうとは魔力が溜められるいわば貯水庫。そこから魔術を放つのだが彼にはそれがない。つまるところ何故彼が魔力を使うことができたのか不明であるのだ。


「ま、予想は立ててあるけどね」

「どんなの?」

「空気中の魔力、もしくは微精霊の力を使ってる」

「微精霊?」

「そう。彼ら、彼女らはどこにでもいてどこにもいない。世界の裏にいると言われるにゃ」

「僕はそれを使っているの?」

「じゃなきゃ属性を使えるのがおかしいにゃ」

「使ってないケド…」

「使ってたにゃ。ネズミに纏わせてた魔力。あれは星天魔術。君はそれが適正なのかも」


 無意識ながらも属性がついていたらしい。それにしても、星天か。とてもかっこいい!星空が好きな僕にぴったしだ。


「だから病院にいるのは魔力のうがないことの体への負担とかもろもろ調べたからにゃ」

「なるほど〜」

「で、帰ろう」

「え」

「もうここに用事はにゃい!」


 帰ることとなった。曰く、船に戻るわけではないらしい。ここ帝国にアジトがあるのでそこに向かうというそうだ。


 病室をでて、久しぶりに外の空気を吸う。シャバの空気はうめぇぜ!…意味は分からないが言わないといけない気がした。


 それはそうとアジト。


 アジト。拠点。とても魅力的な響ではないか。おっきくてもいいし、小さくてもいいな。

地下とかあったらテンション上がっちゃう。


 できればちょっと薄暗くて、Downerな感じであればもう、少年セロ心を鷲掴み間違いなしだ。


 猫と一緒に街を歩く。鼻歌でも歌おうかと思ってしまうほどのどかであった。リナに下手だと怒られなければ間違いなく歌っていた。


ちくしょう。


「ここにゃ」

「あ、すごく普通の家…」


 もちろん他の家と比べかなり大きく、貴族の屋敷と遜色ないのだが…もう少し特殊なものを期待していたセロにとって、寂しい回答であった。


「何を期待してたにゃ?」

「なんかこう、変身してビーム撃つみたいな」

「本当に住みたいにゃ?」


 しっぽではてなのようなマークを作るキャット。上のくねっている部分を作っているのであろう。だが?の・の部分までは作れないだろう!


 そう考えていたセロであったがキャットは一枚上手であった。もう一つのしっぽで・を表した。つまり、一面的な視点でみて『?』を完成させていた。


 セロの負けである。勝負はしていなかったが。それでも、勝ち誇っている猫の顔が忌々しい。別に勝負はしていなかったが。


 そんなことをして、二人で笑いあう。病室でずっと看病してくれていたナグノレアとは、もう仲良しなのだ。


 ドアを引くナグノレア。両引き戸なのは大変素晴らしい。今度は僕が開けたい。


 ギギギと金属が軽く錆びているのか重い音が奏でられる。そして、開けると見慣れた白髪があった。手には木で作られたほうきを持っている。


 持っていた頬木を落としカランと音を立てる。さっきまでこのアジトは静寂であったことを証明していた。


「お、おかえりセロくん!」


 白髪の少女、ソフィアが出迎えてくれた。急に飛びつかれたので、体勢を崩し横転してしまったが痛みよりも嬉しさの方が大きいかった。


 それに続けて団員達から「おかえり」と言ってくれた。


 おかえり。それは初めての体験であるが、心にくるものがあった。なんと返せばいいのかセロは知っている。


「ただいま」


 涙声で少年は伝えたのだった。





怖カツタ。何時死ンデデモ可怪シクナカツタ。


 病室にいる時に何度も頭の中で反芻した言葉。だけど言葉にしなかった。それは弱さだから。呪いだから。


 それを口にしてしまったら、みんなと肩を並べることはできないと思ったから。


 床に張り付いて黒くなってしまったガムのように取れなかった恐怖。眠れなかった。夢をみても、あの戦闘を思い出した。


 暴れまわる触手。人が狂気に陥る姿。飛び散る臓物。ありとあらゆる記憶が目の裏から離れない。


 それでも頑張った。一人でちゃんと飲み込めた、乗り越えた。僕はもう弱くなんてないのだ。









 だからみんなの顔を見て泣いてしまった僕は決して弱くなんてないのだ。

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僕だけが呪われていない世界で。〜飛空艇団バビロン〜 こままのま! @koma0427

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