『親愛なるママへ
ピアノ界の双璧と呼ばれたママの弟子たちはどちらも死んでしまいました。二人とも煉炭自殺です。だから遺体はとても綺麗でした。
あたし、ちゃんと目をそらさずに見たんだよ。二人が死んだとき、真っ先に霊安室に呼ばれたのはあたしだった。ほかの誰でもなく。
今二人はママのところにいるのかな?
ピアノを弾いているのかな?
あたし寂しいよ。まだ二人の死を受け入れられない。
だってあまりにも急すぎる。
ママのときは病気で少しずつ死に近づいていったでしょう。あのときも辛かったけど、でも今回のことがあって、お別れまで猶予があることがどれだけ恵まれていたのかわかった。
二人とも前の日までぜんぜんそんな感じじゃなかったのに。
どうして。
どうしてあたしは部外者なの?
あたしがピアノが上手じゃないから?
世間はいろいろと騒ぎ立てています。
あたしのところにも少し野次馬が来ました。でも追い払いました。
いったいどこから情報を仕入れてきたのやら。あたしは何も知るわけがないのに。
でもあたし見たの。タク
とっても楽しそうだった。
羨ましい。
あたしもあんな自由にピアノが弾けたらいいのに。……やめちゃったのは自分だから自業自得だけど。
明日はソラ兄の葬式です。
なんと、へたくそなのに、あたしが弔いのピアノを弾くことになりました。
ソラ兄のときと違ってあたしと伴奏してくれる人は誰もいません。寂しい。だからせめてと思って、ずっと弾き手がいなかったママのピアノを調律してもらって、葬儀場に運んでもらいました。
ママやタク兄やソラ兄がずっと弾いていた大事なピアノだから。
大したことはできないけど精一杯弾きます。(ちなみに曲はあの『幻想即興曲』です。)
それで、葬式が終わったらあらためてピアノのお勉強をしようと思います。
あたしは死にません。なぜならピアノを弾きたいから。それに、いつか天国に行ったときママと二人にあたしの演奏を披露したいんです。
だから聴かせられる演奏ができるまでぜったいに死にません。
それまで待っててね。
あなたの娘より』
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