第3話 変わるために
「努力! 努力! 努力! 努力! 努力! 努力ゥウウウウウウ!! うぉぉおおおおおっ!!」
滝のように汗を流しながらひたすらに筋トレを続ける俺を、周りの生徒が何とも言えない目で見つめ、俺のその様子に対して絶句している。
「相変わらずだろ? ユウジの奴は」
「レイジ君ではありませんか」
「よっ、委員長。お帰り」
「はい、ただいま戻りました。それで……ユウジ君のあれは、いわゆるいつもの『脳筋ムーブ』というやつですか?」
そう……今の俺にできること。
それがこれだ。
ただひたすらに努力。
何かできないことがあるならば、できるようになれるまで努力すればいい。
実際、今まで俺はそうしてきた。
今でこそ、俺は剣道で全国優勝を果たした強い選手ではあるが、初心者の頃対戦したレイジ曰く「引くほど弱かった」らしい。
それは当時のレイジが強すぎたというのもあったとは思うが、確かに俺は弱かった。
俺は昔から、あらゆることに対してセンスがない。
勉強もスポーツも料理もファッションも、したことはないが多分恋愛に関してもない。
だからこそ俺は、あらゆる物事に関してストイックに努力を重ねてきた。
みんなから脳筋といわれるくらいには。
「彼も相変わらずよね。頭は悪くないはずなんだけど、ああなったら周りが見えなくなってやみくもに努力で解決しようとする。それで大体の物事を解決させてきたんだから、大したものよね」
「あいつらしいだろ?」
そんな二人の中。
「本っ当にそうだよ……いい加減にしろって」
会話に割り込んできたのは、あの峰岸だった。
「あいつも馬鹿だよな。まさか本当に努力だけで俺たちに追いつこうってか?」
「おい、峰岸! そんな言い方は……」
「天才様は黙ってろよ? 確かにあいつは向こうの世界じゃ、あの方法で物事をどうにかしてきたのかもしれねぇ。けど……人智を超えた祝福の力を、本当に努力だけでどうにかできると思っているなら哀れだなぁ」
「もうやめなさい峰岸君!」
そんな峰岸の様子を見かねて、委員長は強い口調で峰岸に注意をした。
「ああ? んなこと言って……委員長だってわかってんだろ? あんなとしても無駄だって」
「ユウジ君だって頑張っているだろう! そんなこと言う必要は……」
「頑張ったから何だってんだ? 結果がついて来ない頑張りに意味はねぇんだよ! 祝福の力は頑張ってどうにか手に入れられるものじゃねぇんだよ! 分かったならあいつによろしくな」
それだけ言い残して、あいつはどこかへ去って行った。
きっとあの二人はこの事を俺に報告したりはしないだろう。
まあでも峰岸あはれだけ大きな声で話してたんだ。
もちろん会話の内容は俺にだって聞こえている。
俺に対する悪口も、認めたくはないが正論な言葉の内容も、俺をあざ笑うかのような視線も全て。
悔しさを胸にしまって俺はトレーニングを続けた。
それからも俺は過酷な努力を続けた。
毎日腕が張り裂けそうな程腕立て伏せをして、毎日太ももがちぎれそうな程走って、毎日手のマメがつぶれる程、木剣を振った。
けれど、ほかのみんなが祝福の力に慣れてきて、日に日に差が縮まるどころか置いて行かれているような気がして、段々と俺には焦りが出てきていた。
まだだ……
まだやれる……
まだ……もっと俺は……!
「おいユウジ、大丈夫か? あまり無理はしすぎるなと言っただろう?」
闇雲にトレーニングを続けた俺に、ふと声をかけてくれたのはレイジだった。
「さすがに雨の中やるこはねぇだろ?」
確かにレイジの言う通り辺りには少し強い雨が降っていたが、正直言われるまで正直気が付けなかった。
今の俺はあまりにも周りが見えていないらしい。
「大丈夫だ。これくらいなら大したことはない。それよりも、俺はどうにかしてみんなに追いつかないと……」
「その調子だと、追いつく前に倒れちまうぞ? 時には休息だって必要だ」
「そうしている間にも、みんなとの差が――」
「差がついたからって……! だからどうなるっていうんだ!」
レイジは珍しく声を荒げる。
「みんなお前のことを心配している! お前が今の自分をどう思っているのかはわからないが、俺たちにとっちゃお前は大切な友達なんだよ! たとえ祝福が使えなくたって、それは変わんねぇだろうが!」
「確かに今はそうかもしれない……けど、それも今だけだったらどうする。祝福の力はあまりにも強力だ。それぞれに個性があって、戦闘だけじゃなく生活に特化したものもある。あらゆる場面で俺の出番がなくなって……『友達だから、仲間だから』っていうので、あいつらはやさしいから俺の面倒自体は見てくれるのかもしれねぇけど、それじゃあ完全に俺はお荷物になる。だからこそみんなのために、俺は何かの役に立つためにも、努力しなくちゃならない……! 変われるかどうかなんて分からない。けれど、変わる努力をしなくちゃいけないんだ!」
確かに峰岸の言った通り、この努力は無駄なものなのかもしれない。
けど、やらなくちゃ何も変わらないんだ。
俺は今までもそうやってきた。
「はぁ……やっぱお前はお前だな、ユウジ」
「ったりめぇだろ? 俺は俺だ」
呆れたというか、安心したというか……
レイジは「やれやれ」といった表情を浮かべた。
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