第2話
「おい、その木材はそこに置いておいてくれ!」
「森で採った木の実、これは食べられるといいな」
騒がしい工事現場のように生徒それぞれがそれぞれの担当をこなし、この世界を生きぬくために行動している。
あれから一週間。
俺達33人の生徒は森の近くに小さな集落を建てた。
あの神の言葉通り、この世界の生態系は全く俺たちの知っているものではなく、危険な生物とも幾度か遭遇した。
しかし――
「モンスターだ! モンスターが出たぞ!」
叫び声のする方を振り返ると、そこには三体の猪のような生物が。
見た目こそ猪ではあるものの、目が緑色に耀き、体長は俺の知っている猪よりも二回り、いや、それ以上のの大きさだ。
これまでも何度か遭遇してはいるが、対処は比較的簡単だった。
なぜなら――
「頼んだぜ! レイジ!」
「レイジくーん! 頑張ってぇ!」
「任された!」
どこからともなく飛んできて、スタッと全員の前に立つ。
手には簡易的な木製の槍を持ち、制服を着崩して登場したのは、俺の親友であるレイジ。
双方が向かい合っていると、猪のモンスターの内先頭の一体がレイジに向かって猛スピードで突進していく。
しかし、レイジは槍を駆使しながらその攻撃をかわし、突進の後にできた猪の隙を逃さず、正確に頭に向かって槍を突き刺し、一頭目の息の根を止める。
「まずは一体目!」
それを受けて、残りの猪は一斉にレイジに向かって突進攻撃を行う。
だがそれを軽くかわし、的確に猪の隙をついて槍で急所に攻撃を入れるレイジのその姿は、まるで達人のそれだった。
レイジは全員の中で、最も早く
あの神が授けてくれた祝福は全員が持ってはいるものの、その能力がどんなものなのかはわからない。
そしてレイジが発現させたギフトは
全ての物事において一定以上の才能を持ち、初めてのことでも熟練した実力発揮することができる。
槍なんて握ったこともないのにも関わらず、今猪に対して無双ができているのは、この祝福の力なのである。
『皆さん、ご無事ですか?』
突如脳内に声が響く。
このよく通る真面目そうな声の主は、このクラスの委員長である早水紗枝。
委員長時代と同じように、俺たちのリーダーとして、この集落を建てる計画などもあいつの発案だ。
この声はそんなあいつが獲得した祝福の
自身の仲間など、遠く離れた他人と会話をしたり、相手の思考を読んだり、相手と視覚を共有することができたりする情報系の能力。
また、委員長とつながった仲間同士ならば、連絡を取ったりすることもできる。
『念の為、他の皆さんはレイジ君の援護が可能でないならば、安全のため少し離れておいてください。処理が終わりましたら、住居の建設作業を再開しましょう。私はもう少しこの森の探索を続けます。では、お気を付けて』
「はぁああああっ!」
委員長からの連絡が終わると同時に、最後の猪が倒された。
「お疲れ」
「おおユウジ、今日はジビエ鍋だよ!」
「ああ……にしても、いいなお前は。強い祝福があって。もう祝福が分かっていないのは俺くらいだぜ?」
そう、実はクラスメイトのほとんどがその能力を発現させている中、俺だけが未だに祝福がどんなものなのかわかっていない。
「大丈夫だろ? お前なら祝福が無くても、マンモスくらいなら狩って生きていけるだろ?」
「お前は俺のことを原始人か何かだと思っているのか? 」
「違ったっけ?」
「俺はれっきとしたZ世代だっ!」
レイジのやつ、後でしばいてやろうか。
俺はふと、向こうで作業中に何やら重そうな建材を運ぼうとしている二人の女子を発見する。
「大丈夫か? 手伝うよ」
「ありがとうユウジ君、でも大丈夫。これ結構軽いから」
そう言って両手に自身の身長ほどの太さのある、明らかに数トンはありそうな巨木の丸太を笑顔で軽々と持ち上げた彼女の名前は
自身の自信をパワー……
つまりは単純な腕力や脚力などの強さに変えることができるという、お金持ちで可憐なお嬢様である彼女には若干似つかわしくない祝福だ。
まあ当の本人はそれを気に入っているらしいが……
そんな彼女に仕事を取られ、仕事がなくなって立ち尽くした俺と、俺の肩に手を置いて「ドンマイ」と慰めてくれようとするレイジ。
「剣道で鍛えてたから、ほとんどの男子に腕相撲で負けることはなかったんだけどな……」
最近はこんなことばかりな気がする。
この世界へと来てから、俺は正直何の役にもたっていない。
俺は常人よりかは少し運動神経がよくはあるが、それだけでは祝福の力には全く及ばない。
俺はこのままでいいのだろうか。
今の俺は完全に戦力になることができていない。
レイジみたいな戦闘能力があるわけでもないし、委員長のようなサポート能力があるわけでもない。
今まで通り祝福の発現を待ってみてもいいが、ただそれだけでいいのだろうか……?
いや、みんなに守られるだけではやはりだめだ。
となると、俺ができることはただ一つ。
「レイジ……」
「ん……?」
「俺はやるぞ」
「何を、とはあえて言わないでおく。どうせユウジが大好きなことだろ?」
「好きではないぞ? しんどいし。けど嫌いじゃない」
「あまり無理はしないようにね」
そう、今の俺にできることと言えば――
「あっ、委員長! 調査から戻られたんですね!」
現れたのはすらっとした眼鏡をかけた高身長の清楚系女子。
彼女がこのクラスの学級委員長の早水紗枝、さっきのあの通信の主だ。
「ええ、実はかなりの収穫がありまして。それで……あそこの彼は一体何を?」
「ああ、茅野君ですね。あれは――」
「うおぉおおおおおおお!! 努力ゥウウウウウウ!!」
集落へと帰ってきた彼女が見たのは、丸太を抱えながら辺りを走り回るという、はたから見れば奇行をとっている俺の姿だった。
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