第8話 缶コーヒー

 山越くんが缶コーヒーを買ってきた。今度はフタ付きだ。


 席につくと山越くんは、その缶を思いっきり振り始めた。振り方が豪快すぎない?そんな力いっぱい振らなくても。


 というかそれ、そんな激しく振っちゃって大丈夫?缶コーヒーってたしか、振っていいものとだめなものがあるはずだけど。


「ふう……」


 一息ついて山越くんが缶を置いた。そうだよね、あれだけ振れば疲れるよね。


「……あ」


 山越くんが固まった。見事に、フリーズした。


「振っちゃ……だめなやつだったんだね」


 私がそう言うと山越くんは静かに頷いた。そして語り始めた。


「缶コーヒーってさ、この社会によく似てるよね……」

「……え?」


 ちょっと何言ってるか分からない。


「振るなって言われたり、振れって言われたり、振ってから振っちゃだめだったことに気がついたり。理不尽で、その上取り返しがつかない」


 なるほど。……いや、やっぱりよく分かんないな。


「ところで筒井さん、この缶コーヒーあげるよ」

「いらないよ!」

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