第9話



扉を少し開けると耳を澄ませた。



辺りには誰もいないことを確認し、フードをもう一度深く被り直す。

僅かに覗く口元には、綺麗な弧が描かれていた。




音を立てず静かに扉を開け、外に出る。




生温い空気が全身を包む。


『警戒を緩めるにはまだ早い』


身を隠せる路地裏を目指し、慎重に歩みを進める。

路地裏までは、目と鼻の先だ、そう思った時、

ほんの少しだけ、空気が変わった気がした。




誰もいなかった筈の空間から、視線を感じ、思わず足を止めた。

振り返る事はなかったが、烏にはその視線の持ち主がわかっているようだった。




一秒か一分か、どのぐらいの時間かわからなかったが、ゆっくりとそちらに視線を向けた。



そこには自分と同じ、闇を纏い、暗闇に身を潜める闇の帝王の姿があった.....。




「お前が烏か?」




静かに声が響く。

だが、その問いかけに、答えが返ってくることはなかった。




「黙っているという事は肯定と取っていいのか?」




静まり返るこの空間に、帝王の声が静かに響く。




「お前はなぜこの街に姿を表した?


数年前から突如として、お前はこの街に現れた。

最初は俺達に何も影響がなかった。

だからわざわざ接触する必要もないと考えていた。


だかここ最近、少しだけ気になる情報を耳にした。お前が、烏が10年前の事件を追っていると。


その事件に関わった組を.....いや遊馬貴志を探していると。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る