第8話



『クソッ!!』




心の中で悪態を吐きながら、足を動かす。

まさか、こちらに気付くとは思ってもみなかった。




『なぜあの場所がわかった?』




様々な疑問が駆け巡る中、

『今はここから一刻も早くここから出なければ.....』


頭の中でルートを確認しながら、足を動かす。





きっと表と裏は既に塞がれている筈だ。

ならば秋風はきっと裏に居る。


奴等は少し目立ちすぎる。

秋風ならば目立たずに行動ができる裏を選ぶ筈だ。

ならば表から出るべきか?




奴等は俺の顔を知らない。人混みに紛ればバレない。

だか、この場で素顔を晒すのは、少しリスクが大きすぎる。

 




『どうする?』

一瞬の迷いが命取りだ。

判断をミスればこちらが危ない。






そんな事を思いながら、身を隠し静かに表を確認する。



思っていた通り、人混みに紛れ京極組の者だと思われる姿が目に入る。

だかやはり読みは当たっていたようだった。







そこに秋風の姿はなかった。

『これぐらいの人数ならば大丈夫だ』

思わず笑みが出た。




『表から逃げられる』

そう思い動き出そうとした瞬間、目に入ったのは一人の人物に、組員達が頭を下げる光景だった。

一際目立つ、明らかに他の者とは違う雰囲気を持つその人物を見た瞬間、眼を見開いた。





『八神?』







そこには喧嘩では誰にも引けをとらないと言われる、八神 黎二 (やがみ れいじ) の姿があった。



予想をしていなかった人物の登場で、少しだけ、焦りの色を滲ませた。




『どうする?』

八神の登場で一気に状況が変わった。

表からは無理だ。






『考えろ』


目を瞑り深呼吸をする。

心を落ち着かせ。


『大丈夫、俺は烏、闇に紛れる者』


自分に言い聞かせた。









何かある筈だ、そう思い辺りを見渡す。

ふと目についた扉、とても古く普段ならば見落としてしまいそうな、そんな扉だった。




そういえばこのビルは昔、改装工事をしていた事を思い出す。

あの扉は改装前に、使用していた、もう一つの裏口に繋がる扉だった。


改装してからは新しく違う場所に裏口ができた為、使う者はいなくなったが、まだ扉は残っているようだった。







静かに気配を消し、バレないようにその扉に近付いていく。


運が良い事にこの扉は表からは見えない。

扉に手をかけ静かにドアを開ける。


温い風が頬を掠めた瞬間、

『俺の勝ちだ』

口元に自然と笑みが溢れた。

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