3

「ありがとうペロ! それじゃ、まずは一緒に戦う仲間を紹介するペロ! 早速行くペロ!」

「行く?」

「向こうの公園で待ってもらってるペロ。ピュアパラに必要な『ピュアのタネ』もそこで渡すペロ」


 ということで、外に出ることになった。

 玄関から出ると家族にバレてしまうので、ペロに靴だけ取ってこさせる。


 パジャマの上からジャケットを羽織る。窓を開けて一階の屋根に靴を置き、その上に降りて履いた。

 そのまま屋根を伝って、裏手の道路へ。


 一応周囲を確認しつつ、飛び降りた。

 そのまま公園に向かって歩き出す。


「ピュアのタネはピュアパラに変身するためのアイテムペロ。意思が原動力ペロ。でも、覚醒直後は暴走する可能性があるペロ。だからタネの譲渡は他のピュアパラ監督の下で行うペロ」

「どうでもいいけど、ペロ、って語尾気持ち悪いんだけど」

「邪魔とかならともかく、気持ち悪いは普通に傷つくペロ……」


 魔力が暴走すると言われても、仮にも元魔王。その程度の制御が出来ないわけない。

 とはいえそれを説明するわけにもいかないからね。とりあえずは従うとしましょう。


「今日来てくれるピュアパラは二人ペロ。二人とも二年以上ピュアパラをやってくれてて、一人はひまわり地区のユニットリーダーでもあるペロ。仲良くしてくれると嬉しいペロ」

「ユニットリーダー、って?」

「ピュアパラは地区ごとに2人から6人程度でユニットを組んで戦うペロ。そのリーダーのことペロ」

「ということは、ピュアパラって結構大所帯なんだ」

「今は全国に200人くらい居るペロ」


 思ってたより大所帯だった。

 けれどまあ、戦いなのだ。それくらい人数が居てもおかしくはないか。

 全国でその数なら、むしろ少ないくらいかもしれない。


 

   †



「着いたペロー」

 小さな公園の中央に、二人の女の子が見えた。


 一人は、近くの女子高の制服を着ている。

 もう一人は、私とは別の中学校の制服姿だった。


「初めまして、東雲しののめ花梨カリンと言います。よろしくね」

 私が二人の前に行くと、高校生の方がそう名乗った。

 後ろでひとまとめにした長髪に、真っ直ぐな目。凜々しい印象の美人だ。おそらく彼女がユニットリーダーだろう。


軍城ぐんじょう白葉シラハだよ、シラハって呼んでねー」

 中学生の方がそう言って、笑顔で手を振ってきた。

 自然と視線が行ってしまう笑顔は、天性の物だろう。

 気さくに接してくれる優しさと気遣いが、この一瞬でも良く分かる。


「春日野トアです。よろしくお願いします」

 名乗り返すと、二人は「よろしく」と返してくれた。


「それじゃ早速、ピュアのタネを譲渡するペロ」

 言うと、ポンッと音を立てて何もないところからカバンを出現させた。格納魔法の一種だ。


 カバンを開けて、中から大きめのビーズのような球を取り出す。

 私が右手を差し出すと、ペロがそれを掌の上に置く。


「ピュアのタネに向かって魔力を集中するイメージしてみるペロ。そして、語りかけるように、『変身』と唱えてみるペロ!」

「分かった」

「慣れないうちは難しいと思うけど、とにかく意識とイメージペロ」


 言われたとおりピュアのタネに向かって魔力を注ぐ。

 そしてゆっくり口を開……



 パァン!



 こうとした瞬間、掌の上でピュアのタネが爆ぜた。

 バラバラに砕けて、欠片が掌に残る。


「……ペ?」

 ペロが目を丸くして私の掌を見つめていた。


「魔力が許容量を超えちゃったみたいだね。不良品じゃない?」

「そんなわけないペロ……もう一度試してみてほしいペロ」


 ペロがもう一つ、ピュアのタネを取り出す。

 破片を振り払って、再び右手を差し出した。ペロがそこにピュアのタネを置く。


(一応、今度は魔力を最小限に押さえて……)



 パァン!



 破片の一部がペロの額にくっついた。


「盗み見精霊」

「……ペロだペロ」

「これ以上魔力を押さえるの無理なんだけど」

「……そもそもなんで人間のキミが魔力操作できるペロ……?」

「昔取った杵柄ってやつよ」

「13歳の昔っていつペロ……」

「とにかく、もっと魔力の許容量が大きいのない?」


 そう言うと、ペロは困ったように眉を寄せる。


「……無くはないペロが……それは15歳以上で、かつ一定以上に強くなった子しか譲渡を認められないパワーアップアイテムなんだペロ。危険な物なんだペロ」

「そんなこと言ったって、これじゃ役に立たないんだから仕方ないじゃん」

「だ、ダメペロ! 流石に13歳の子に渡せないペロ!」

「詳しく説明してくれる?」

 腰に手を当ててペロを見下ろす。


 肉体に悪影響があるなら仕方が無い。今は諦めよう。

 魂こそ百年以上生きた元魔王でも、肉体は普通の人間の子供。この体に何かあったら、両親が悲しむ。


「ピュアのタネの上位は『ピュアのタマハガネ』。魂の鋼と書いて、魂鋼タマハガネだペロ。文字通り体だけでなく、魂にも魔力を纏うための装備なんだペロ。

 これが暴走したら、タネよりもっと大変なんだペロ! 最悪、魂を奪われて、タマハガネに乗っ取られちゃうかもしれないんだペロ!」


 ――つまり、魂のリスクだけが上がり、肉体面はタネと変わらない、と。


「ならそれちょーだい」

 右掌を上にして差し出す。

「……話聞いてたペロ?」

「聞いてたから言ってるの。魂の問題なら、どうとでもなる」


 何を言おうか考えてる様子のペロ。

 カリンさんとシラハさんが黙って私を見る。


 誰もが何も言わない、静寂の間。


 と、そこで一瞬、地面が揺れた。


「……地震……?」

 周囲の様子を確認する。

 一見、被害はなさそうだった。


「た、大変ペロ! 『溢れ』が起きた、と精霊ネットワークにエマージェンシーが来たペロ!」

 ペロがその場の全員に大声で報告した。


「溢れ!?」

 カリンさんが聞き返す。


「す、推定危険度8強……! まずいペロ、ここ数年で、間違いなくトップレベルペロ!」

「……本気で境世界を突破しにきた、ってこと……?」

 ペロの言葉に、シラハさんが独り言のように呟く。


「『溢れ』って?」

 ペロに尋ねた。

「『溢れ』は、普段『塔』と呼ばれる拠点に居る妖魔が一気に出てくることペロ……」


「シラハ、境世界に戻るよ! ペロ、ゲートを開いて!」

「は、はい!」

「もちろんペロ!」


 ペロが両手を掲げると、二人の目の前に直径二メートルほどの黒い渦のような物が出現した。

 転移魔法だ。これがカリンさんの言ってたゲートなんだろう。


 そのまま二人は黒い渦を通って姿を消す。


「トアちゃんごめんペロ! 悪いけど、今日のところは帰って欲しいペロ!」


 ペロはそう言い残して、二人を追って黒い渦の中へ入って行った。


 一瞬、私は考えて。


 黒い渦が徐々に小さくなる中、そちらに向かって駆け出した。

 両足を踏み切って、その中へ跳び込んでいく。

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