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「ありがとうペロ! それじゃ、まずは一緒に戦う仲間を紹介するペロ! 早速行くペロ!」
「行く?」
「向こうの公園で待ってもらってるペロ。ピュアパラに必要な『ピュアのタネ』もそこで渡すペロ」
ということで、外に出ることになった。
玄関から出ると家族にバレてしまうので、ペロに靴だけ取ってこさせる。
パジャマの上からジャケットを羽織る。窓を開けて一階の屋根に靴を置き、その上に降りて履いた。
そのまま屋根を伝って、裏手の道路へ。
一応周囲を確認しつつ、飛び降りた。
そのまま公園に向かって歩き出す。
「ピュアのタネはピュアパラに変身するためのアイテムペロ。意思が原動力ペロ。でも、覚醒直後は暴走する可能性があるペロ。だからタネの譲渡は他のピュアパラ監督の下で行うペロ」
「どうでもいいけど、ペロ、って語尾気持ち悪いんだけど」
「邪魔とかならともかく、気持ち悪いは普通に傷つくペロ……」
魔力が暴走すると言われても、仮にも元魔王。その程度の制御が出来ないわけない。
とはいえそれを説明するわけにもいかないからね。とりあえずは従うとしましょう。
「今日来てくれるピュアパラは二人ペロ。二人とも二年以上ピュアパラをやってくれてて、一人はひまわり地区のユニットリーダーでもあるペロ。仲良くしてくれると嬉しいペロ」
「ユニットリーダー、って?」
「ピュアパラは地区ごとに2人から6人程度でユニットを組んで戦うペロ。そのリーダーのことペロ」
「ということは、ピュアパラって結構大所帯なんだ」
「今は全国に200人くらい居るペロ」
思ってたより大所帯だった。
けれどまあ、戦いなのだ。それくらい人数が居てもおかしくはないか。
全国でその数なら、むしろ少ないくらいかもしれない。
†
「着いたペロー」
小さな公園の中央に、二人の女の子が見えた。
一人は、近くの女子高の制服を着ている。
もう一人は、私とは別の中学校の制服姿だった。
「初めまして、
私が二人の前に行くと、高校生の方がそう名乗った。
後ろでひとまとめにした長髪に、真っ直ぐな目。凜々しい印象の美人だ。おそらく彼女がユニットリーダーだろう。
「
中学生の方がそう言って、笑顔で手を振ってきた。
自然と視線が行ってしまう笑顔は、天性の物だろう。
気さくに接してくれる優しさと気遣いが、この一瞬でも良く分かる。
「春日野トアです。よろしくお願いします」
名乗り返すと、二人は「よろしく」と返してくれた。
「それじゃ早速、ピュアのタネを譲渡するペロ」
言うと、ポンッと音を立てて何もないところからカバンを出現させた。格納魔法の一種だ。
カバンを開けて、中から大きめのビーズのような球を取り出す。
私が右手を差し出すと、ペロがそれを掌の上に置く。
「ピュアのタネに向かって魔力を集中するイメージしてみるペロ。そして、語りかけるように、『変身』と唱えてみるペロ!」
「分かった」
「慣れないうちは難しいと思うけど、とにかく意識とイメージペロ」
言われたとおりピュアのタネに向かって魔力を注ぐ。
そしてゆっくり口を開……
パァン!
こうとした瞬間、掌の上でピュアのタネが爆ぜた。
バラバラに砕けて、欠片が掌に残る。
「……ペ?」
ペロが目を丸くして私の掌を見つめていた。
「魔力が許容量を超えちゃったみたいだね。不良品じゃない?」
「そんなわけないペロ……もう一度試してみてほしいペロ」
ペロがもう一つ、ピュアのタネを取り出す。
破片を振り払って、再び右手を差し出した。ペロがそこにピュアのタネを置く。
(一応、今度は魔力を最小限に押さえて……)
パァン!
破片の一部がペロの額にくっついた。
「盗み見精霊」
「……ペロだペロ」
「これ以上魔力を押さえるの無理なんだけど」
「……そもそもなんで人間のキミが魔力操作できるペロ……?」
「昔取った杵柄ってやつよ」
「13歳の昔っていつペロ……」
「とにかく、もっと魔力の許容量が大きいのない?」
そう言うと、ペロは困ったように眉を寄せる。
「……無くはないペロが……それは15歳以上で、かつ一定以上に強くなった子しか譲渡を認められないパワーアップアイテムなんだペロ。危険な物なんだペロ」
「そんなこと言ったって、これじゃ役に立たないんだから仕方ないじゃん」
「だ、ダメペロ! 流石に13歳の子に渡せないペロ!」
「詳しく説明してくれる?」
腰に手を当ててペロを見下ろす。
肉体に悪影響があるなら仕方が無い。今は諦めよう。
魂こそ百年以上生きた元魔王でも、肉体は普通の人間の子供。この体に何かあったら、両親が悲しむ。
「ピュアのタネの上位は『ピュアのタマハガネ』。魂の鋼と書いて、
これが暴走したら、タネよりもっと大変なんだペロ! 最悪、魂を奪われて、タマハガネに乗っ取られちゃうかもしれないんだペロ!」
――つまり、魂のリスクだけが上がり、肉体面はタネと変わらない、と。
「ならそれちょーだい」
右掌を上にして差し出す。
「……話聞いてたペロ?」
「聞いてたから言ってるの。魂の問題なら、どうとでもなる」
何を言おうか考えてる様子のペロ。
カリンさんとシラハさんが黙って私を見る。
誰もが何も言わない、静寂の間。
と、そこで一瞬、地面が揺れた。
「……地震……?」
周囲の様子を確認する。
一見、被害はなさそうだった。
「た、大変ペロ! 『溢れ』が起きた、と精霊ネットワークにエマージェンシーが来たペロ!」
ペロがその場の全員に大声で報告した。
「溢れ!?」
カリンさんが聞き返す。
「す、推定危険度8強……! まずいペロ、ここ数年で、間違いなくトップレベルペロ!」
「……本気で境世界を突破しにきた、ってこと……?」
ペロの言葉に、シラハさんが独り言のように呟く。
「『溢れ』って?」
ペロに尋ねた。
「『溢れ』は、普段『塔』と呼ばれる拠点に居る妖魔が一気に出てくることペロ……」
「シラハ、境世界に戻るよ! ペロ、ゲートを開いて!」
「は、はい!」
「もちろんペロ!」
ペロが両手を掲げると、二人の目の前に直径二メートルほどの黒い渦のような物が出現した。
転移魔法だ。これがカリンさんの言ってたゲートなんだろう。
そのまま二人は黒い渦を通って姿を消す。
「トアちゃんごめんペロ! 悪いけど、今日のところは帰って欲しいペロ!」
ペロはそう言い残して、二人を追って黒い渦の中へ入って行った。
一瞬、私は考えて。
黒い渦が徐々に小さくなる中、そちらに向かって駆け出した。
両足を踏み切って、その中へ跳び込んでいく。
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