第24話:えいなの過去

「……こほん。えと、本題」


 えいなは1つ咳払いをして、言葉通り本題に入ろうとした。


 ただ、さっき急にあんなこと言われたせいで、僕としてはなかなか気持ちを切り替えれないんだけども……。


 あと、結局ベッドに座ったのも集中できない原因の1つ。


「体育祭について、なんだけど……」


「う、うん」


「わたし、参加しないとだめ、かな」


 だけど、僕のそんな感情は一瞬で吹き飛んだ。


 え、どういうことだろう? やっぱり、体育祭に行きたくない、ってことなのかな……?


 ……うん、勝手に決めつけるより、ちゃんと話を聞こう。


「というと?」


「…………行きたくない、です」


 予想は当たってた。当たってたけど……どうしようかな……。


 もちろん僕としては来てほしい。一緒に体育祭をやりたい。でも、僕の身勝手かもしれない。


 えいなの打ち上げてくれた雰囲気からして、ただ単に「サボりたい」って意味じゃなさそうだし……。


 多分だけど、運動が苦手だからっていう理由じゃない気がする。


 えいなもきりも、高校からは苦手なことにも頑張ると、そう宣言してくれた。過去を克服しようと。


 となるとやっぱり────原因は、過去?


「理由を、聞かせてくれる?」


「……ん」






 これはわたしが中学1年生の頃の体育祭の話。


 中学の頃は全員リレーっていうのがあって、わたしも参加しなきゃいけなかった。


 でも、そーたも知ってると思うけど、わたしは走るのが苦手。嫌いなんじゃなくて。


 走るのが遅いっていうのもあるけど、どうしてもこけちゃう。


 案の定、練習のときもたくさんこけた。一生懸命走ってるのに、すっごい頑張ってるのに、こけた。


 友達はいなかったけど、クラスのみんなは応援してくれたよ? 「みんなで協力するのが体育祭」って。


 ────でも。


 わたし、お手洗いに行ってたときに聞いたんだ。


『音海、ちゃんと走ってほしいよな』


 多分、クラスの男の子たちの会話だったと思う。


 わたしはすぐに逃げ出しちゃったから、その前後の会話は分かんない。


 もしかしたら、わたしが思ってるような会話じゃなかったかもしれない。わたしの早とちりかもしれない。


 でも、もうズタボロだったわたしにとどめを刺すには、十分だった。






「──わたしの中学生活は、そこでおしまい」


 えいなは僕にすべてを話してくれた。僕は言葉をかけるべきだとは思いつつ、何も言葉がでてこなかった。


「ごめん」


 すると、えいなは僕に謝ってきた。


「いやなんでえいなが謝っ──」


「そーたも、巻き込んじゃって」


 お水飲んでくる、と言って、えいなはゲーミングチェアから立ち上がり、部屋の扉へ歩き出した。




 ──僕はその背中を後ろから抱きしめた。




「っ……!」


「ごめん、急に。でも、僕の話を聞いてくれる?」


「……ん」


 僕はゆっくりと言葉をまとめた。


「体育祭、行かなくてもいいと思う」


「……え」


「えいなの話が僕にも起こってたら、僕は高校にも来れなかったと思う。こうして、今えいなが高校に通ってるだけで、ほんとすごい」


 えいなは僕の言葉を静かに聞いてくれる。


「でも、僕は体育祭に来てほしい。今は僕もいる。きりもいる。祐希くんも、凪くんも、早乙女くんもいる」


「……うん」


「僕は、友達みんなと、えいなと体育祭に参加したい」


「……うん」


「結局、身勝手になっちゃうかな? でも、えいなと一緒に参加したいって思ってくれてるの、今数えただけでも5人いる──えいなは、どうしたい?」


 僕は上手く言葉をまとめられなかった。でも、今のえいなに味方がたくさんいるっていうことは伝えられた。


 あとは、えいなの意見。


「わたし、は……」


 そこで呼吸を1つ挟み、僕の拘束からするりと抜け出して、僕と向かい合った。




「わたしは、みんなとでたい!」




「中学を乗り越えたい!」




「みんなと……そーたと一緒に──!」




「……うん」


 僕は、ううん、僕たちは正面から抱きしめあった。


 不器用な言葉でも、伝わってくれたのかな……?

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