第23話:えいなんち!

「あ」


 僕の住んでいるマンションに近づいてきたとき、きりが急に思い出したように声を上げた。


「ん? どーしたの?」


「今日ママのお買い物付き合わなきゃだった……! ごめん、また明日ー!!」


「え、あ、はーい! また明日ー!」


 僕の返事を聞くのもそこそこに、きりは今歩いてきた方向へ帰るように走り出してしまった。


 思ったより時間迫ってたみたい。


「じゃ、僕たちも解散しよっか」


 きりと別れたからって、僕たちもいつも解散する高崎公園にもう着いたからね。


 僕はえいなにそう提案した。


「……ちょっと」


「んー?」


「ちょっとだけ、お話したい……」


 えいなは少し、ほんの少しだが、詰まるように言った。


「──じゃ、えいなの家まで送るよ」


 だから僕は、詳しく聞き出すことはなくそう言った。


 簡単に言えるようなことではないのだろう。そういう判断から。


「あり、がと」


 えいなはぼそっと答えた。


 そして、視線は下に向け軽く俯いたまま、控えめに右手を僕に向けてきた。


 僕は優しく包み込むように握り返す。そして歩幅を合わせてえいなの家に向かって歩き出した。



 しばらくは無言の時間だった。でも、僕は急かすように声をかけたりはしなかった。


 さっきの感じ、少し話しづらそうだったからね。話せるようになるまでは待つよ。



 そして、一言も発すことなくえいなの家に着いた。


「えっと……」


「中、だいじょうぶ、親いない。いーよ」


 えいなはそう言って、僕の手を握ったまま玄関の扉を開いた。


 僕の手を離す様子はなく、僕も帰るつもりもないので、えいなに連れられるがままに家の中に入っていった。


 ……まぁ、えいなの家に初めて入るのが、えいなと2人きりになるとは思わなかったけど。


 ちょっと恥ずかしい。


「2階?」


「ん、わたしの部屋がいい」


 僕、やっぱ耐えれないかもしれない。


 とはいえ、話を聞かないことには何も始まらないから行くんだけどね。



 えいなの部屋は、うすい水色と白で統一されているかっこかわいいといった作りだった。


 配信者ということもあって、防音材もいくつか設置してあった。


 机の上も、完全にゲーマー設備であった。


「ベッドにでも座って」


「え、いいの?」


「なん、で?」


「いやその……えいなが嫌じゃないかなって」


 えいなの天然さがゆえかなと思って、僕はそういった。


「……あ」


 うん、やっぱり気づいてなかったみたいだね……。


 すると、えいなは頬を染めながら顔を手で隠しながら言った。




「──そーたなら、嫌じゃない、よ?」




 さっきのしんみりとした感じ、どこいった?





《あとがき》


重め回なのでさっさと終わらせようと思ったんですが、長引いたので分割させてください…!

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