第20話:いちゃいちゃ 2

「だ、大丈夫……?」


「……どっちかって言うと大丈夫じゃないかも」


 アニカーが始まって小一時間ほどが経ったときのこと。僕はカーペットの上で四つん這いになってうなだれていた。


 ……というか1時間経つまで耐えたことを褒めてほしいくらい。


 もちろん、アニカーの成績が悪い状態がずっと続いて嘆いてるわけじゃない。いや、それのほうが良かったんだけど。


 ジャイロ操作なら身体が大きく揺れることもあるから、ソファに座る時点で一言言えた。


 ……スティック操作だからって、隣に座らせなければよかった……。


 2人とも、ゲーム中(おそらくアニカー以外も)は身体が揺れるタイプみたいで、レース中に揺れた髪が僕もほおを撫でたり、服越しとはいえ肌が密着して体温を感じたり、あと……まぁ、いろいろあたったり……。


 いくら長年の付き合いとはいえ、15歳思春期男子高校生には耐えれないんだよおおおおお!!!!


 と、いうことで今に至るというわけだね。


「と、とりあえずオレンジジュースもらおうかな……?」


「ん〜!」


 僕の気持ちになど気づいていないような声で、きりがコップに注いで渡してくれる。


「ありがと……あぁ〜生き返る〜!」


 このほどよい冷たさと酸味が、僕の邪な気持ちをリセットしてく──。


「あれ……そーたんのコップ、それじゃない……」


 んぐふぅ!


「え? あほんとだ、これ私のだー! ま、変わんない変わんない!」


 今日はだめかもしれない──。


 ◇◆◇


「よーし、次はワルクラでダイヤはや見つけバトルだっ!」


 アニカーが終わると、次は正方形だけで構成された世界的大ヒットサンドボックスゲームである、ワールドクラフトを始めた。


(……うん、結局2人とも僕の横にぴったりくっついたままだけど、これならさすがにさっきみたいなことにはならないか!)


 なにか盛大なフラグを立てた気がしなくもないけど、そのままゲームが始まった。


「よーし、木材軽く集めてそっそく地下に──」


「きり、食料もいるんじゃない?」


「確かに。食料とかも集めなくていいの、きり?」


「あ、ほんとだ! んもー、勝負だってのに結局助けてくれ──って、君たちもう地下行ってんじゃん!!」


「ぶい」


「ま、勝負だからね」


「くぎー! 騙されたぁ!!」


「いて、いててて。ちょっ……きりさん? せめてゲーム内で叩いてくれませんか?」


 現実の方で叩かれると揺れた髪があたって、ゲームに集中できなくなるんだけど?


「うぐ、たしかにそれは一理ある……」


「──きゃっっっ!!!」


「えちょ、えいなさん!?」


 集中力が削がれていると、今度は反対側のえいながかわいらしい悲鳴をあげながら、僕の左腕に抱きついてきた。


 ゲーム画面を見ると、後ろから静かに来ていた自爆モンスターが爆発していて、ゲームオーバーと表示されていた。


 怖がったあまり、勢いで抱きついたのだろう。いや、勢いでもこっちは心臓に悪いんだけど!?


 華奢な身体とはいえ、女の子らしい柔らかな感触が僕の腕で感じる。


 あと、勢いがよかったことで、シャンプーの香りなのかえいな自身の香りなのかはわからないが、いい匂いがしてくる。頭がくらくらしてきそう……。


「あっ」


 集中力がなくなった僕は、気づいたら高い崖から落ちて落下死してたとさ。


「うぅ、夜寝れないぃ……」


「はいはい、怖かったね。よしよし」


 とりあえずえいなが離れてくれないことには、僕も集中できないので、えいなの髪を優しく手でとかす。


 すっごいさらさら……ずっと触っていた──何考えてるんだ!?


「あー! またえいなばっかり!! わ・た・し・もっ!」


 ん! と言いながら、きりも僕の腕に抱きついてきた……って、何この状況……?


 そこから数分、「ん……」というえいなの声や、「んふー……」というきりの声も加わり、五感のうち4つを刺激される時間が続いた。


 そして、やっと開放された。


「よ、よし! じゃあゲーム再開だね!」


「「ん!」」


 そうして、僕はコントローラーを手に取……ろうとすると、視界に影が落ちた


「え?」


「どっこいしょ」


「いやどっこいしょじゃなく──地味に古いね」


 ついついツッコんじゃったけど、マジで何してるの!?


 身長差の関係上、ちょうどえいなの髪が僕の視界を埋め尽くした。


 つまり──ソファに座っている僕の膝の上に、えいなが座ったのだ。


「むふん、そーたの温もりが1番感じられて、1番安心できる……」


「ちょっ……」


 また恥ずかしいことを……っ!


「ちょちょ……えいな!」


 いいぞきり! さすがに上に乗ってるのはアブナイから、お願いどかしてー!!!


「まぁ、怖かったもんね……今日だけ許そう!」


 ゲームの中の話でそこまで許せるの!? あと、その許可だすの僕──。


「なんか……安心したら眠く……」


 こてん、と後ろに倒れるように僕の肩に頭を置いた。


 疲れてたのもあると思うけど、すぐに眠ってしまった。


 ……寝顔、めっちゃかわいい。


「……そーたんも、ゲーム終わる?」


「うん、終わろっか。えいな寝かせよ?」


 タッタッタッ、ときりは掛け布団を取りに行き、僕ごとえいなにかけてくれた。




 なんか、すごい夫婦と娘みたいだな……。







《あとがき》


ランキング落ちてきてるので、甘いお砂糖と引き換えの星、よろしくお願いします!()

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