第2話:クラス分け

 絶世の美少女2人との登校に、僕はめちゃくちゃ緊張──することは特に無かった。


 なんてったって、数年にもなる長い付き合いなんだから。どれだけ可愛かろうとも、友達としての意識の方が強い。


 ……強いだけであって、気になりはするけど。


 楽しく談笑しながら20分ほどで学校に着く。



 入学式には、僕たち1年生はもちろんのこと、僕たちに学校の説明などをするために、2年生も登校している。


 3年生は生徒会の方以外は休みみたい。



 急にこんな話をした理由?


 ……ここに来るまでに2年生の人たちからもめちゃくちゃ視線が飛んできたって言いたかったからです。


 まぁ……僕の右にはきりが、左にはえいながいるもんね……。


 アニメとかである「あの子めっちゃ可愛くね?」ってやつ、思ったより本人に聞こえてるから注意しよう。


「えっと……まずどこに行くんだっけ?」


「体育館だね。そこでいろいろ話聞いて、その後クラス分け」


「そーたえらい、ちゃんと覚えてる」


「覚えてないのは結構問題だからね?」


 そうして僕は、何も知らない2人を引き連れて体育館へと向かった。


◇◆◇


 体育館には、先輩たちや先生が準備してくれたであろう椅子が大量に並べられていた。新入生は、たしか30人×10クラスだったはずだから、300個あるのかな?


 ここは、来た人から自由着席みたいなので、僕たちはなるべく端っこに座った。


 2人は久しぶりの学校だし、人に慣れてないだろうからね。


 ここでも視線を浴びながら、入学式が始まった。



 校長先生の話はそこそこに、生徒会の挨拶と生徒たちによる面白おかしい学校説明があった。


 ここ高崎高校は個性大事に!生徒主体!を掲げてるからだろうね。


 そして、特に退屈することもなく入学式は終わり、クラス分けに移った。


「えーっと……クラス分けは剣道場だったよね」


 中学のときは柔道場と合わせて武道場という建物だったが、高校では体育館の1階にあるみたい。


「うぅ……私、そーたんと同じクラスじゃなかったらまた不登校なりゅ……」


「わたし、も……」


「そしたら一緒にゲームしないからね」


「「そっ……それだけは勘弁を……!」」


 口を揃えて言ってくるのに、僕は笑いながら「冗談だよ」と言う。


 ぷくー、とほっぺが膨らむのを可愛いな、と思いつつ、僕たちは剣道場に入る。


「うわ……人多いね」


 壁に貼られてあるクラス分けの紙を前に、たくさんの新入生たちが群がっていた。


 見るまで時間かかりそうだなぁ……。


「って、あれ? 2人ともどこ行った?」


 時間かかりそうだね、と言おうとしたら、2人の姿が見当たらない。


 あれ、さっきまで隣に……って──。


「人多いぃ……」


「うっ……」


 僕の後ろで隠れるように身を潜めていた。


 そうだ。久しぶりの学校だもんね。こんな場所はまだきついか。


「そこのベンチ行こっか」


「「うん……っ!」」




 僕たちは剣道場の様子が見えるかつ、比較的人が少ないところにあったベンチに腰掛けた。


 腰掛けた、んだけど……。


「え、えっと……近くない?」


 僕の両隣に1人ずつ座り、僕に身を寄せるように座っていた。3人用のベンチのはずなのに、両端にあと1人ずつは座れそう……。


 あと、えいなに関しては僕の腕とえいなの腕を絡めてるし……。


「そーたんの近くが一番落ち着くもん」


「ん、そーいうこと」


「いやその、そう言ってくれるのはすごい嬉しいんですけどね……?」


 登校中や入学式で浴びてきた男子からのいやらしい視線が、殺意に変わってるのが僕にも分かる。


 はは、明日生きてるかな。


「おっ! 蒼汰じゃん…………って、どういう状況だ……?」


 周りの視線に怯えていると、朝2人を助けてくれた祐希くんが男子生徒を1人連れながら話しかけてきた。


「えっと……まぁいろいろと、ね……」


「まぁそれはおいおい拷問するとして」


「……ん? え、ごうも……え?」


「同じクラスだったな! よろしくな!」


「え、ほんと!? 人多くてまだ見れてないんだよね」


 まさか、2人以外で唯一知ってる人が同じクラスとは……嬉しい奇跡だ!


「ちな、こいつも同じクラスだからよろしくな!」


 祐希くんはそう言って隣にいた物静かな雰囲気を纏っている男子生徒の背中を手で叩く。


「ちょっ、祐希痛いって」


「ははっ、ごめんごめん」


「えっと、吉村凪です」


「あ、神村蒼汰です。えっと……凪くん、よろしくね?」


「うん。よろしくね」


 凪くんが小さく笑う。


 この人……髪が長くて顔が見えにくいけど、めっちゃイケメンじゃ……。


 僕が2人と話してると、片腕がすごい締め詰められる。えいなだった。


「あ! そういえばこの2人はどこのクラスか、とか分かる……?」


 えいなに腕を抱きしめられて、2人に全然構ってないなと気づいた僕は、まだ人が多い剣道場を見て、祐希くんたちに聞いてみた。


「そもそも名前が分かんねえんだ……」


「あ、ごめん。えっと」


 僕はチラリと彼女たちを見る。でも、まだ僕以外と話せそうな雰囲気では無かったので、僕が答える。


「歌坂希里──歌うの歌に坂道の坂、と、音海瑛奈──おとうみって書いて音海だよ」


「え、マジ? なら2人とも同じ1組だぜ!」


「「「え、ほんと!?」」」


 同じクラスと告げられた瞬間、僕たち3人は同じことを同時に言ってしまう。


 そして、お互い顔を見合わせて──。


「「「あははははっ!」」」


 僕だけでなく、彼女たちも一緒に声を出して笑った。その様子を見て、祐希くんは「よかったな」と言いながらニッと笑う。凪くんも一緒に笑っていた。

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