第1話:絶世の美少女

 次の日。僕はいつもよりも随分はやく目が覚めた。


 なぜなら今日は入学式だから──って理由も勿論あるけど、今回は多分早く寝たからかな……。


 ま、そんなことはどうでもいいね。僕はちゃちゃっと学校の準備を終わらせて、誰もいないリビングに「行ってきます」と言い、家を出る。


 時刻は7:30。


 僕は、昨日の話題にも出た集合場所の公園の近くにあるっていうマンションに住んでいる。なのでどうせだから一番に公園に向かうことに。


「45分頃来るって行ってたっけ……迷子にならないといいけど……」


 ひとり言を呟きながら、僕は公園にあるブランコを漕ぐ。4月の始めはまだ少し冷えていて、こうして風を感じるとちょっと寒く感じる。


 そんなことを思いながらぼーっと僕の住んでいるマンションを見ていると、僕と同じ制服を来た男子生徒が1人出てくる。


 もしかして、同じ高校の人たくさんいるのかな?


 そうして時間を潰していると、20分ほどが経過した。約束の45分を過ぎたが、まだ来る気配は無い。


「うん、こりゃ迷子だな──よっ、と」


 僕はブランコを飛び降り、置いていたカバンを肩にかけ、RINEを起動する。


 えーっと……【今どこにい──】。


「おーい! そこの君ー!」


 僕がメールを打ち込んでいると、後ろから若い声が聞こえてきた。


 公園には誰もいなかったし……僕、だよね?


「は、はーい!」


 僕は振り向きながら答える。


 するとそこには、こちらに手を降っている高崎高校の男子生徒と、その後ろに俯いて顔を伏せている女子生徒が2人いた。


「君、女子2人と待ち合わせをしてるか?」


「あ、う、うん! そうだけど……」


「お、じゃあたりか。ほら、多分この人だよ」


「あ、ありが、と……」


 女子生徒の内1人が彼に感謝を伝える。それを聞いて、彼はニッと笑い、「どういたしまして」と答えた。


 僕も彼に「ありがとう」と伝える。


「気にすんなって! それより、お前もしかして高崎高校の1年?」


「あ、うん。神村蒼汰です。えと、君は……?」


「俺も1年だぜー! 青山あおやま祐希ゆうきだ。同じクラスになれたらいいな! んじゃな!」


 そう言って彼は学校の方へ走っていった。めっちゃイケボだったなぁ……ってじゃなくて!


「えっと……」


 僕は改めて2人に向き直る。2人とも俯いていて、声も出してくれないし、どうしたものか……。


 あ、まだ僕が僕って確証が無いのかな。


「えー……なきりとえーみ、だよね?」


 僕がそう聞くと、2人はハッとした様子で顔を上げた。


「よ、よかったぁ……! そーたんだ!! うん!私がなきりこと、歌坂うたさか希里きりですっ!」


「ん、そーただ。えと……はじめまし、て? えーみこと、音海おとみ瑛奈えいな、です」




「へ……あ、うん! あ、改めて、神村蒼汰です」


 僕は少ししどろもどろになりながらも、ちゃんと自己紹介で返した。


 今もまだ、ちょっと緊張してるけど……。


 だ、だって……2人とも、絶世の美少女なんだから!



 なきり……じゃなかった、歌坂さんはツインテールにまとめられた茶色がかったさらさらの長い髪を、僕に自己紹介しながらそのツインテと触覚を揺らしていた。


 髪の下にあるくりっとした目の整った童顔をくしゃっと崩すように笑う。


 それに合わせて、女性らしい体つきをしている体も揺らす姿は、少し子供っぽい。



 そして、えーみ……じゃなくて、音海さんはミディアムに整えられさらさらの黒髪で、長い前髪を目にかからないように分けていた。小さく首をかしげる動作に合わせてそれが揺れる。


 表情の変化は、歌坂さんと違って乏しく、だが、それがダウナー系美少女として確立しているように思えた。


 華奢な体格であるが、その顔立ちと雰囲気がどこか大人っぽい印象を与えていた。



 通話越しでも、真反対の性格だなぁとは思ってたけど、美少女っていうところが共通点なのはずるいって……!


「? そーたん?」


「? そーた?」


「え……あぁいや! なんでもないよ、歌坂さん音海さん。それじゃ、学校行こっか!」


 僕がそう言うと、なぜだか2人はムッとしたような表情になる。音海さんはそんなに変わってないけど。


「えっと……なんか変なこと言ったかな……」


「うん、言った」


「えー……どのあたりでしょうか」


「名前」


「え」


「いっつも、なきりー!とか、えみー!とか言ってるじゃん! なんで今さら名字呼びなのさ!」


 え、ええぇっ!?


「いやだって……本名じゃん現実こっちは! さすがに名前呼びは……」


「「むぅ…………」」


 いや、むぅって言われても……リアル初対面の女子に呼び捨ては一部の明るい人たちにしかできない技能であって……。


 ……まぁでも、なきりとえーみとは長い付き合いだしなぁ。


 そう考えると、そこまで緊張しなくなってきたような……。


「えっと……じゃ、きりとえいな、行こっか!」


「「……! うんっ!」」


 僕がそう言うと、2人は喜んだ様子で頷き返してくれる。その様子は、正直めちゃくちゃ可愛い。


(でも、やっぱ呼び捨てはハードル高いってー!!!)


 僕は心の中で叫びながら、2人と学校に歩き出した。

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