第27話
いたずらっぽく微笑んだ彼女がわたしの耳に顔を寄せる。
「本当の左京を知りたかったら、夜のカフェをのぞいてみなさい。責任は取れないけど」
雇ってもらった日、左京さんと約束した。
勤務時間も休日も自由。制服も好きなものを着ていい。そのほかのルールもとくに決めないけれど、ひとつだけ守ってほしいことがあると。
『夜のカフェには、決して来てはいけないよ』
だから、左京さんと早めの夕食を食べたあと、わたしは二階の自室に閉じこもる。約束を破って下に降りたことはない。
でも、鬼蝶さんの言葉がすごく気になった。
いつも紳士的で優しい左京さん。なにかを隠しているのは確実だけど、わたしは本当にそれを知りたいの?
「小春。……小春? どうしました?」
「あっ、いえ!」
左京さんの声にびっくりして飛び上がりそうになった。
鬼蝶さんのオーダーのオムライスができあがっていた。慌てて受け取って、彼女のテーブルに持っていく。
気はそぞろだったけど、なんとかミスをせずに仕事を終えることができた。
* * *
どうしても気になる。
左京さんのことを考えはじめたら止まらくなってしまって、わたしは初めて彼との約束を破った。
足音を立てないよう注意して、ゆっくりと階段を降りる。
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