第25話
「なれなれしくしないように」
左京さんは不機嫌だけれど、鬼蝶さんを嫌っている様子はない。遠慮なくものが言える幼馴染みのような雰囲気。
「小春、こいつのことは放っておいていいですから。むしろ放置推奨です」
放置推奨という言い方に思わず笑ってしまった。
こんな空気感もいいなと思う。気さくであたたかくて、裏表のないやり取り。
鬼蝶さんは長い黒髪をかき上げてにやりとした。
「小春ちゃん、左京に不満があったら、昔馴染みのわたしが叱ってあげるわよ」
「いえ、そんな。すごく大事にしてもらっています」
「へー!! 大事に! あの左京がねぇ」
この二か月、左京さんには本当にお世話になった。
わたしは今、カフェで働かせてもらいながら二階のあの部屋で暮らしている。
そのとき左京さんに改めてここがどこなのか聞いたら、旧軽井沢のはずれだと教えてくれた。軽井沢なら実家からそれほど離れていない。車で一時間くらいだ。
結局、秋野の家や婚約者の石山さんには連絡していない。
左京さんは言葉を濁していたけれど、どうやらわたしの存在は、家族や知人といった周囲の人の記憶から消えているらしい。
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