4.月夜のお茶会

第24話

「いらっしゃいませ!」


 本日最初のお客さんは初めて見る女性だった。常連客ばかりなので、新しいお客さんは貴重だ。


「お好きな席へどうぞ」

「ありがとう。あなた、新人さん?」

「あ、え、はい」


 わたしが知らないだけで、常連さんなのかもしれない!


「失礼しました。二か月前から働いています。よろしくお願いします」


 頭を下げると、彼女は唇の端を上げてにいっと笑った。大人っぽい美人だけど、雰囲気がいたずらっ子みたい。


「左京の匂いがする。もしかして付き合ってるの?」

「えぇぇ!? 匂い!? 違います、単なる住み込みの従業員です」


 美女にくんくんと匂いをかがれるシュールな状況にちょっとめまいがした。


「そっか。同棲してるから匂いが付いてるのね」

「同棲!?」


 付き合ってるとか同棲してるとか、冗談にも程がある。困っていたら奥から左京さんが出てきた。


「あなたが顔を出すなんて珍しいですね、鬼蝶きちょう

「あら、来ちゃだめだった?」

「別に。ただ小春をからかうのはやめてください」


 いつも穏やかな左京さんがご機嫌ななめだ。

 その女性――鬼蝶さんはまったく気にせず、わたしへ話しかけてくる。


「へー、小春ちゃんっていうの。かわいい名前ね」

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