第23話

わたしの顔をのぞき込んで、そうささやいたときの彼の瞳があまりに優しくて、言葉を失ってしまった。


「平凡な日常の中でごく当たり前に、食べる人の幸せを願う。そんな気持ちのこもった料理。カレーライスって、そういう食べ物でしょう?」


 左京さんの声が心に染み込んでくるようだった。

 本当にここがふるさとだったら――わたしの本当の家だったら、どんなに素晴らしいだろう。幸せを願ってくれる家族がいて、おいしいカレーがあって……。


 わたしはぼろぼろ泣きながら左京さんのカレーライスを食べ切った。

 食べたあとに現れたのは、霞がかかったようなブルーのカレー皿。

 今朝二階の窓から見た、静かな森。雪をまとった木々の間にのぞく冬の青空みたいな優しい色だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る