第21話

カレーライスのイメージって強烈だ。家族団らんやにぎやかな学校給食の象徴のような。日本で育った人なら、そんな共通認識があるんじゃないかしら。


 ――わたしには無縁だけど。


 秋野家の食卓を思い浮かべた。

 わたしの食事は、両親と姉夫婦が食べたあとに決まっていた。だから、食卓にはいつもひとり。

 お手伝いさんが用意してくれたものを黙々と食べて、自分で後片付けをして部屋に戻る。そんな毎日だった。


「おしゃべりしながら食べてもいいですか?」

「もちろん」

「だれかと一緒にごはんを食べるのって楽しいですよね」


 学校でも地元の有力者の娘で〝訳あり〟のわたしは遠巻きにされていた。

 小学校の昼休み、教室の片隅で予習するふりをして聞いていたクラスメートたちの会話。『給食よりおいしいお母さんのカレー』の話はよく覚えてる。


「ひと晩寝かせたカレーがおいしいって聞いたけど、本当ですか?」

「旨み成分が溶け出して熟成が進むからと言われていますね。スパイスの香りが飛ぶので、僕はやりませんが」

「そうなんですね」

「小春が食べたいなら作りますよ」

「あ、いえ、ちょっと憧れていただけなんです」

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