第16話

左京さんがなぜわたしの名前や境遇を知っていたのかは、結局わからなかった。ほんとにどうしてなんだろう。会ったこと、ないよね?

 昨日の出来事を考えていたら、キスされたことまで思い出してしまった。


「うわぁ……」


 なんでキスなんかしたのかな。

 びっくりはしたけれど、いやじゃなかった。無理やりだったはずだけど、抵抗感もなかった。

 顔が火照る。

 もちろん生まれて初めてのキスだ。見ず知らずの人に奪われたのに、とても自然で安心感があって……。

 と思ったところで、変な気分になってしまいそうで慌てて考えるのをやめた。


「顔、洗ってこよ」


 身支度を整えて、シンプルなワンピースに着替える。

 心身ともにすっきりして冷静になると、改めて現実的な問題がよみがえってきた。

 わたし、石山さんの家に行くという約束を破ってしまった。きっと両家では大騒ぎになっているだろう。

 気が重いけど、あとで連絡しなきゃ。

 でも、言い訳が思い付かない。それに、これからどうしたらいいのか……。 

 絶望的な状況は昨日も今日も変わらない。むしろ行方不明になってしまったぶん、悪くなっているはずだ。

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