第15話

心臓がぎゅっとなったけれど、今は考えたくなかった。とりあえず後回しにして、目の前の人への疑問を口にする。


「左京さんはなんでわたしを知っていたんですか? 名前や――あ」


 そのとき、わたしの質問を遮るようなタイミングで、一階から澄んだチャイムの音が響いた。

 左京さんはすまなそうに目じりを下げた。


「ああ、すみません、取引業者の配達です。この部屋の隣が洗面所なので、自由に使ってくださいね。あと、クローゼットに衣類が入っています。適当にそろえたものだから、今度あなたの好みの服を買いに行きましょう」

「服? そういえば……」


 はっと気づき、両手を広げて自分を見る。わたし、高校の制服のままだ。

 セーラー服はしわくちゃになっていた。とっさにアイロンをかけなきゃと焦ったけれど、すぐに昨日卒業式だったのを思い出した。もうセーラー服は必要ないんだった。


「顔を洗って着替えたら、下においで。朝食を作ってあげますから」


 音も立てずにドアを開け閉めして、左京さんが出ていった。

 わたしは頭を振った。まだぼうっとしている。

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