3.左京さんの隠し味

第13話

「……ん、んん? ここは?」


 目が覚めたとき、わたしは見知らぬベッドで寝ていた。

 自分の部屋じゃない。秋野の家では畳に布団を敷いていたし。

 ベッドの脇にあったスリッパを履いて窓際に行き、カーテンを開けてみる。


「もう朝……?」


 窓の外は、明るい光の差し込む静かな森だ。見下ろすと、木々に囲まれた庭に雪が積もっている。ここは二階みたい。

 雪をまとった木の枝が繊細な模様を描くレースのように広がり、その間から青空がのぞいていた。かすかに霞がかった淡い青は、厳しい冬の中で唯一の優しい色だった。


「ほんとにここ、どこなんだろう」


 わたし、寝ぼけているのかな。まだ夢を見ているのかも。

 見覚えのない景色にぼんやりと首をかしげていると、ドアをノックする音がした。


「おはよう」

「おはようございます……」


 現れたのは、背の高いイケメンだ。昨日――たぶん昨日だと思うけど、橋の上で声をかけてきた不思議な雰囲気の男性。

 彼はシンプルな白シャツに黒いカフェエプロンを身に着けていた。


「ここは僕の店の二階です。下でカフェをやっていて、二階は居住スペースになっています」


 穏やかな声が、わたしの脳内の疑問へ先回りするように答えてくれる。

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