第8話
去年石山さんがうちに来たときなぜか見初められ、高校を卒業したら後添えにしたいと父に申し込みがあった。
祖父が生きていたら同じくらいの年齢だろう。そんな年上の人と結婚するなんて、もちろん考えられない。でも、わたしの意見は聞かれなかった。
秋野家としては最初から断れない話だったのだ。なにしろ選挙の票集めから不倫スキャンダルのもみ消しまで、父がさんざんお世話になっている相手だ。
「わかりました。これから石山さんのお宅へ行けばいいでしょうか」
「さっき秘書の方からお電話をいただいたけれど、もうお待ちかねだそうよ」
母は声を落としてささやいたあと、突然笑い出した。
「ああ、いいざまだ。あの女の娘が今夜、醜い年寄りに嫁ぐなんてすかっとするわ」
いつも冷たい顔をしている母の、感情むき出しの大声に驚いて体が震える。
「お母さま?」
「わたくしはあなたの母であったことなどありません。その呼び方は金輪際しないように」
これまで家族から愛された覚えはない。でもきっと、多かれ少なかれみんな同じ。愛なんてなくても生きていけると、ずっと思っていた。
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