第5話

標高千メートルにある高原リゾート、長野県軽井沢町。明治時代に外国人の宣教師が避暑のために訪れてから、たくさんの著名人がこの地に別荘を建てて夏を過ごしてきた。


 今では四季を問わず多くの観光客がやってくる。観光の中心は旧軽井沢銀座通りだ。

 レトロな写真館やお土産屋さん、かわいらしいジャム専門店やパン屋さんなどが並ぶおしゃれな商店街から、少し道をそれると緑豊かな別荘地の森が広がっている。

 その旧軽銀座の一番奥から、さらに深い森へと迷い込むように進むと、カフェレストラン『月夜のお茶会』がある。

 左京さんは全然商売っけがなくて、広告も出さないしグルメサイトへの掲載も断っているらしい。もちろん電話番号も非公開。そんなわけで、一見さんはなかなかたどり着けない幻のカフェだ。


 わたしがこのカフェの店員になったのは、まだ町が雪で真っ白だった三月上旬のこと。あれからふた月しか経っていないなんて信じられない。

 ここではみんながわたしに優しくしてくれるけれど、あのときはもう人生を終わらせるしかないと思い詰めていた。わたしを絶望の淵からすくい上げてくれたのが、カフェのオーナー王陰寺左京さんだった。

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