第2話

左京さんがお客さんに向かって軽く首をかしげると、うしろでひとつにくくった長い髪がさらりと揺れた。


「小春にさわるなって、あれほど言ったでしょう。出入り禁止にされたいのですか、あなたは?」


 スタッフがわたししかいないせいか、左京さんは常連客がわたしをかまうのがいやみたい。


「お客さんとお話しても、仕事はきちんしますから心配しないでくださいね」


 左京さんに向き直ってお願いすると、それを見ていたお客さんがプッと吹き出した。


「これだから小春ちゃんには敵わないな、オーナー?」

「まったくです」


 左京さんも苦笑気味に微笑んでいる。


「えっ、なんで? なんかわたしが悪いことになってる!?」


 抗議すると、左京さんが腕を伸ばしてわたしの横髪にふれた。

 接客業なので、ロングヘアはうしろでシニヨンにしている。だけど、どうしてもおくれ毛が出てしまう。


「ごめんなさい。サイドの髪、もっとちゃんとまとめてきますね」

「いや、十分清潔だから大丈夫ですよ。それに、とてもかわいいし」


 ときどき左京さんは、こういう女たらしめいたことを言う。

 わたしのような平凡な子が彼みたいにかっこいい人のお世辞を本気にしたら世間さまから笑われてしまう。そう自分に言い聞かせておかないと。

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