第2話
左京さんがお客さんに向かって軽く首をかしげると、うしろでひとつにくくった長い髪がさらりと揺れた。
「小春にさわるなって、あれほど言ったでしょう。出入り禁止にされたいのですか、あなたは?」
スタッフがわたししかいないせいか、左京さんは常連客がわたしをかまうのがいやみたい。
「お客さんとお話しても、仕事はきちんしますから心配しないでくださいね」
左京さんに向き直ってお願いすると、それを見ていたお客さんがプッと吹き出した。
「これだから小春ちゃんには敵わないな、オーナー?」
「まったくです」
左京さんも苦笑気味に微笑んでいる。
「えっ、なんで? なんかわたしが悪いことになってる!?」
抗議すると、左京さんが腕を伸ばしてわたしの横髪にふれた。
接客業なので、ロングヘアはうしろでシニヨンにしている。だけど、どうしてもおくれ毛が出てしまう。
「ごめんなさい。サイドの髪、もっとちゃんとまとめてきますね」
「いや、十分清潔だから大丈夫ですよ。それに、とてもかわいいし」
ときどき左京さんは、こういう女たらしめいたことを言う。
わたしのような平凡な子が彼みたいにかっこいい人のお世辞を本気にしたら世間さまから笑われてしまう。そう自分に言い聞かせておかないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます