姉弟

久石あまね

「ふん」

 大学4年生になった私には6歳年下の弟がいる。

 名前は隆。

 

 年末になって東京の大学から大阪に帰阪してから私はテレビを観たり漫画を読んだり、学生最後の退屈な年末年始を過ごしていた。彼氏がいれば一緒に旅行にでも行くのだが、あいにく私には彼氏はいない。彼氏がいない暦イコール年齢の私の将来はいったいどうなるやら。


 昼にリビングルームでコーヒーを飲みながらこたつで昼寝していると、隆が帰ってきた。


 「隆、おかえり。久しぶりやな」


 「ふん」


 「どこ行ってたん?」


 「ふん」


 「なぁ?」


 「ふん」


 隆は冷蔵庫からコーラを取り出し、それをコップに注ぎ飲んだ。


 「あんた、ふん、しか言われへんのか?」


 「ふん」


 隆はそんなにしゃべらない子だっただろうか。昔はよくしゃべる子だったのに。


 隆は顔色ひとつ変えず、こたつへと入ってきた。隆の足が私の足にぶつかった。ゴツゴツした隆の足はもう少年の足ではなく大人の足だった。


 「なあ、隆。あんた彼女とかおらんの?」


 「ふん」


 「ふん、じゃわからんやないの」


 「ふん」


 「彼女おるんかて?」


 「ふん」


 しばらくして私はおもむろに笑ってしまった。隆は「ふん」しか言えないのか。いつからそんな子になったのだ。昔はよくしゃべる子だったのに。


 隆は学校で何かあって、何か思い悩んでいるのかなと思った。


 「姉ちゃん、久しぶりやな」


 隆が何の前触れもなくそう言った。


 「ふん?」


 私は思わず、「ふん?」と言ってしまった。


 やはりわたしたちは姉弟なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

姉弟 久石あまね @amane11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ