45.ステータスオープン(笑)
『どんな対価がいいかな?なにかチートスキルを望むかい?例えば即死スキルとか、圧倒的な魔力量とか、経験値100倍とか───あぁ、これは君には適応外だったね。スキルのコピーとかもいいねぇ。強奪系も強いよね。それとそれと後は──────』
「いやいらんけど」
『え?いらないの?』
白い影が顎に人差し指を置いて首を傾げる姿に幸隆の不快感が増した。
「即死とか、強奪とか何物騒なこと言い始めてんだよ。怖いよお前」
『でも君は生きるか死ぬかの世界に身を置いているんだよ?だったら持つ力は大きい方が良くない?』
「制御しきれる自信がねぇよ」
強奪とかはまだしも即死スキルって、暴発したらどうすんだよ。
幸隆はそんなスキルを持てば安心して人と関わる事が出来なくなるだろうと不安を抱く。
『任意だから大丈夫さ!【スキル】なんだからそこらへんは上手く行くシステムさ!』
「それだよそれ。だれだよそんなシステム作ったの、お前?なら一層信用できねぇけど」
『辛辣だなぁ。私は世界に既にあるシステムを流用しているだけだよ?───すこーし弄ることになるけどね?』
「そこが信用ならないんだわ。そもそも得体の知れない奴が寄越す力なんてどうして信用できるんだよ。ノータリンかよ」
『うーん警戒心が強いなぁ。私がこの世界の神様だと言ったらどうだい?』
幸隆はその言葉を聞いて余計に侮蔑の表情を強くする。
「今更だろ。お前が神を自称するのは勝手だが、それを素直に信用したところで今度はその神とやらを信用するかどうかはまた別問題だ」
『……神であっても信用しないと?』
「少なくとも突然拉致紛いのことをしでかす奴のことなんて信用ならん。そいつが信用獲得のために神なんて言葉を持ちだしたら猶更だ」
幸隆はサブカルが好きではあるが、いざ自分がそんなチートスキルを現実でもらえるとしても決して手を出さない主義だ。
その力が自分に害にならないというご都合主義など、現実の世界には存在しないことを彼は知っているから。
「自分で獲得した、中身の分かる力以外は正味不気味でたまらん」
『探索者の力はそうではないのかな?』
こいつのいう事ももっともだ。
超常的な力を齎す探索者の力は幸隆からしたら不気味なものだ。
「最初は確かにそうだったが、もう十年も使われ続けて力そのものに問題があったって話は聞かない。いつも問題に上がるのは勘違いした探索者個人、つまりはそいつの人間性の問題だ」
ここ十年探索者の力が身体に害を及ぼしたという話は聞かない。
枯れた技術、とまでは行かないが、これだけの人間がこれまで探索者であり続けて、力そのものに疑問の声が上がってこなかったのだからいくらかは信用してもいいだろうと幸隆は考えている。
問題は勘違いした探索者個人の話だ。
力に驕った探索者が一般人又は同じ探索者であっても下の実力の物に対して横暴に振る舞い時折事件を起こす。
しかしそれは個人の資質の問題であって、利用された力の問題ではない。
事件現場で見つかった包丁が悪いわけでない。
それを不正利用した人物が悪いのだ。
『ふむふむ。聞けばもっともな話だね。もしかして君の頭って結構まとも???』
「結構もなにも上等な頭脳してんだろ俺。なんで疑問に思うんだよ」
『?????』
怪訝は雰囲気の白い影。
身体が一歩引いているような気がする。
『案外、用心深くてびっくりしたよ。本編では見られないキャラクターの新たな一面を見たような気持ちだ』
「なんだそりゃ。俺はいつも真面だろうが。ムカつくなぶん殴るぞ」
幸隆が拳を握って腕を振り上げる。
『ははッ私を殴るなんてこの空間でできるわけ──────アレッやっぱできそうな雰囲気!ちょっ、たんまたんま!』
みっともなく降参する白い影の男に毒気を抜かれた幸隆が拳を下す。
殴る気はそんなになかったが。
『まぁ、あれだ。君の事は理解できたよ。何より神すら信用しないと言ったセリフが気に入った!!あんな高跳び連中私は嫌いだからね!』
何を言っているのだろうか。
幸隆はそいつが何を言っているのか半分くらい理解できず聞き流す。
『だから君に渡すのは力でなくアイテムにしよう。それなら君に直接干渉するものじゃないからいいだろう?』
「アイテム?」
それでも白い影に対する不信感は拭えない。
『大丈夫さ。アイテムといっても強力な物じゃない。ちょっとしたものさ』
白い影が何もない空間から何かを取り出した。
『たらららったら~ステータスウォッチぃ~』
「え?何急に」
いきなり口調を変えた白い影に少々身構える幸隆。
しかしそんなこと知った事かと説明を始める。
『これはね~幸隆くん。自分の今のステータスを客観的に見る事のできる優れた時計型アイテムなんだよ~』
「その口調やめてくれ──────ステータスって?」
幸隆でもそれは分かる。
一番テンプレ的なものが来たなと幸隆は思った。
『うっふっふっふぅ~──────ごめんって』
しゅんとして落ち込んだ白い影が少しいじけた声で説明を始める。
『これはねステータスオープンと言えば自分のステータスを確認することができる私特性のマジックアイテムなんだよ』
そういって影は幸隆に向けてその腕時計を投げ渡した。
それを片手で受け取り、顰めた表情のまま言われた言葉を口にする。
「……ステータスオープン」
するとそれはARのように空中に文字列を浮かび上げた。
NAME 本堂 幸隆
AGE 26
SEX 男
CLASS 不明【適応外】
STR 120
VIT 100
DEX 40
AGI 70
INT 15
MND 90
LUCK 15
SKILL
捕食
オートヒーリング
怪力+
絶倫
催淫粘液
変換
「ちょっと待て」
浮かび上がったステータスの文字群に色々とツッコミたい幸隆が額に手を当てていた。
「CLASSとか俺のINTとか色々と物申したいことはあるが……なんだよ!!絶倫って!催淫粘液って!!」
そんなわけがあるかと幸隆は腕時計にチョップを入れる幸隆。
自分にそんな年齢制限を考えない能力など無いことくらい自分が一番理解している。
『あーその腕時計が君をスキャンして情報を読み取ってる訳じゃないから叩いても直らないよ?といか叩いて直すって考えが昭和だよね』
「だれがおっさんだ!俺はまだ26だ!平成生まれだ!!」
幸隆は最近年齢に対して敏感になっている。
声を荒げて怒りん坊だ。
『それは僕が読み取った君の能力を映せる範囲で可視化したものなんだ』
「お前のせいか!」
『うわっと────乱暴だなー。君が豚鬼なんて食べちゃうからでしょー』
「──────あ。いや、でも確かに食べちゃったけどもっ。なんか気付いたら口の中が腐ったウニみたいな味で一杯だったけども!」
『あんなゲテモノの鬼を食べちゃう君が悪いよー。普通、手足失ってお腹が空いた(意味深)からって混ざり者の豚鬼なんて食べないからね?というか食べられないからね?お腹壊すじゃすまないから』
ごくごくもっともな説教を喰らった幸隆は何も反論できずに押し黙る。
だって、気付いたらもう食べてたもん。
なんて子ども染みた言い訳は通用しなさそうだ。
『変換スキルが性欲を食欲に置き換えてくれるから一先ずはリビドーを抑え込んでくれるはずだよ?因みにその重要な変換スキルはその腕時計に内蔵されたもう一個の機能で君のための外付けスキル。君が嫌う君自身への直接的な干渉スキルだけど──────いらない?』
「ぐぬぬぬっ………………………………………………………………………………………………………………いる」
『悩んだね。僕だって君が性欲に溺れる姿なんて見たくないんだ。純愛主義者たる同志へのせめてもの贈り物さ』
自分の身体に干渉されるなど気に入らないが、こいつのいう事が本当なら目も当てられない事になりそうだ。
なにせ、今まで何気なしに担いできた杏は見た目だけは
いや、口は悪いが性格も良い。
あれ?実は超優良物件なのでは?
そんなくだらないことは一先ず置いておいて、見た目は綺麗な女性と長い事ダンジョンで二人っきりで行動することになるのだ。
こんな成人指定スキルを野ざらしにしてしまえば俺はいつかあの豚鬼のようになって、自身の主義を汚し、女性を傷つけ、そしてお縄につくことになる。
そんな未来を想像して幸隆の顔が蒼白となる。
考えれば考えるほどに必須スキルだった。
幸隆は今後の事を考えたくないと嘆息を吐いた。
「素直に感謝しとくよ。けどそれ以外に俺に対して何か干渉しやがったら容赦しないからな」
『怖いねぇ。この状況の中でもその暴力性を失わせないのは流石だよ。力の差とか考えないのかい?』
確かにこの状況幸隆に勝てる要素など無いに等しい。
こんな謎の空間に相手に気付かせないまま連れてくる生き物かどうかも怪しい相手に、今の幸隆がどうこうできる道理はない。
それでも幸隆はムカつけばそれを抑えずに牙を剥くだろう。
それは白い影の男にも分かる。
だからこそ面白いと。
だからこそ鑑賞に値すると接触まで試みたのだ。
「一度でもビビって見せた相手に勝てない道理はねーよ」
幸隆が拳を握る。
確かに幸隆の暴力は今のままでも白い影の男に届く可能性があった。
『ふふふっ。やっぱり君は面白いよ。その気性の成す物語を是非私に見させてほしい。期待しているよ鬼の子よ』
「一方的に好き勝手呼びやがって。少しは自分も名乗れよ」
『私の名前はまだ教えられないな。だけど私の事は【観察者】とでも呼んでほしい。覗き魔だの、カオナシだのと馬鹿にする奴らもいるがね。私はいつも楽しく観ているだけだというのに』
「いや、違法視聴民だろ。威張んなよ」
『対価は支払っただろう!?これからもサブスク形式で払うと言っているのに!』
よっぽど蔑称が気に入らないのか大変ご立腹の様子で声を荒げている。
動きも両手を上げて、地団駄も踏んでこれでもかと分かりやすく怒っている。
幸隆自身もオホ声おじさんと呼ばれていることをつい最近知ったためその気持ちは少し理解できる。
「悪かったよ。そう怒んなよ──────違法カオナシ覗き魔視聴民。モラルは持てよ?」
『ムキィィィィィイイイイイ──────!』
しかしそれとこれとは話は別だ。
こんな倫理観の欠落したある種の変態に向ける気遣いは不要だろう。
多分自分以外の被害者も結構いそうだ。
そう考えた幸隆に白い影に対する罪悪感はこれっぽちもなかった。
「あ、てか、サブスクってことはなんだ?毎月こんなアイテムとかくれんの?」
別に毎回素直に受け取るつもりはないが、どう言った頻度でこいつが何かしらを寄越すのか幸隆は気になった。
『そうだね。毎月っているとあれだから君の活躍の区切りに対価を支払うとするよ』
「活躍の区切り?」
『そう、毎月だと君がぐぅたらする毎日でも私は支払いをしなくちゃいけなくなるだろう?それだと作品の質の向上に繋がらない。次に繋がらない投資など投資にならない。だから君の起こした面白いお話の最後に私が君に対価を支払うという形にしよう』
「それはサブスクというより普通に買い切り──────まぁいいか」
突っ込めばまた話が長引きそうだと考えた幸隆はそれを飲み込んだ。
『──────んん!?ラブコメの波動を感じる!!……こっほん。そろそろ時間のようだね。私もやることが山積みで大忙しの身だからそろそろお暇させて頂くよ。ではね──────』
嘘つけどっか別のところ見に行くつもりだぞこいつ。
覗き魔ってのも的確な表現じゃないか。
そうドン引きする幸隆の視界が一瞬でブラックアウトした。
気づけば幸隆はダンジョンの六階層ではなく、なぜか入口近くまで戻ってきていた。
これもあいつの細かな気遣いなのかもしれない。
正直今の体調では帰還するのも大変だったため、この気遣いは素直に嬉しかった。
とんっ、と背中に誰かがぶつかった。
「──────お、おう。悪いなよく前を見てなかったよ兄ちゃん。ってなんだお前その恰好!?」
「え?いや、確かに今の俺ほぼ裸だけど許してくれよ。大事な所は隠れてるだろ?」
「ま、まぁこんな仕事だ。しょうがね……兄ちゃんちょっと待ちな」
「なんだよ。こっちは急いでる──────」
すると背中にぶつかってきた男とは違う、別の女性が悲鳴のような声を上げる。
「きゃぁぁぁぁああああ!!野蛮人が衣服がボロボロの女性を拉致してるぅぅぅぅうううう!!誘拐よ!強〇よ!不同意性交よぉぉぉぉおおおお!!」
「は!?ちがっこれは──────」
騒がしくなったフロントから制服を着た屈強な男たちがやってきた。
恐らく探索者達に対する警察機構のような連中だろう。
「!?……これは──────少しお話をお伺いしてもよろしいでしょうか」
山賊染みた見た目が怪しい男が、素肌の露出が激しい女性を肩に担ぐ姿。
一発アウトの光景だった。
「またこんな感じかよぉぉぉおお!!」
幸隆の慟哭がギルド全体に木霊した。
女性探索者行方不明事件の解決と幸隆の紛らわしい光景が重なり、幸隆に対して謂れのない冤罪が掛けられたが、目覚めた杏の証言によって疑いが晴れるも、ギルド内に於いてその日、綺麗な女性を連れ去る野蛮人現るという不名誉なうわさが広がってしまった。
それはインターネットにまで広がり、探索者怪談の一つに加えられたらしい。
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