第22話 タイ語スピーチコンテスト:瑠奈、長政の記憶に翻弄される!
バンコクの大学で開かれたタイ語スピーチコンテスト。瑠奈は、ステージの上でスポットライトを浴び、緊張した面持ちでマイクを握っていた。客席には、多くの学生や教授たちが期待を込めた視線を送っている。瑠奈は深呼吸をし、ゆっくりとスピーチを始めた。
「サワディー カップ、トゥックコン!(みなさん、こんにちは!)」
瑠奈は、練習の成果を出し切ろうと、心を込めてタイ語で語りかけた。テーマは「私のタイでの生活」。大好きなタイの文化や人々について、熱く語り始めた。
「タイに来て、私はたくさんの素晴らしい経験をしました。タイの人々はとても親切で、いつも笑顔で接してくれます。」
瑠奈のスピーチは順調に進んでいた。しかし、スピーチ中盤、事件は起こった。
「私は、特にタイの歴史に興味があります。アユタヤ王朝時代、日本人傭兵隊長として活躍した山田長政は…。」
瑠奈が山田長政について語り始めた瞬間、頭の中に、長政の記憶がフラッシュバックしてきた。
「おう、瑠奈よ!わしじゃ、山田長政じゃ!」
長政の力強い声が、瑠奈の頭の中で響き渡る。
「こら、瑠奈!なんでそんなぎこちないタイ語で喋っとるんじゃ!もっと、こうじゃ!」
長政は、瑠奈のタイ語をダメ出しし始めた。そして、瑠奈の口を借りて、昔のタイ語で話し始めた。
「ข้าพเจ้ามีนามว่า ยามาดะ นางามาสะ!(わしは山田長政と申す!)」
「ชาวสยามเอ๋ย!ข้าพเจ้ามาจากแดนอาทิตย์อุทัย!(シャムの人々よ!わしは日の本からやってきた!)」
突然の昔のタイ語に、会場は騒然となった。
「え…?今のタイ語、何…?」
「なんか、古くさい言い回しだね…」
「でも、なんか面白い!」
客席からは、ざわめきとクスクスとした笑い声が聞こえてくる。瑠奈は、頭の中で暴れる長政を制止しようと必死だった。
「ちょ、ちょっと長政!やめて!私のスピーチが台無しになっちゃう!」
「なにを言う!わしのタイ語は完璧じゃ!これこそが、本物のタイ語じゃ!」
長政は、瑠奈の言葉を無視して、昔のタイ語でまくし立て始めた。
瑠奈は、観客の視線と長政の記憶に挟まれ、パニック状態に陥っていた。顔が真っ赤になり、冷や汗が止まらない。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
「私は…私は…!」
瑠奈は、必死に自分自身を取り戻そうとした。そして、長政の記憶と戦いながら、自分の言葉でスピーチを続けることを決意した。
「私は、山田長政の記憶を通して、タイの歴史の奥深さを知りました。」
瑠奈は、長政の記憶を逆手に取り、スピーチに深みを加えていった。
「彼の時代と現代では、言葉も文化も大きく変化しました。しかし、タイの人々の温かさ、そしてこの国の魅力は、今も昔も変わらないものだと感じます。」
瑠奈は、過去のタイ語と現代のタイ語を織り交ぜながら、スピーチを締めくくった。
「コップンカー!(ありがとうございました!)」
会場は、大きな拍手と歓声に包まれた。瑠奈は、ハプニングに見舞われながらも、最後までスピーチをやり遂げたことに安堵していた。
「ふう…なんとか、やり切った…」
「おう、瑠奈!なかなかやるではないか!わしも感心したぞ!」
長政は、満足そうに瑠奈を褒めた。
審査の結果、瑠奈は特別賞を受賞した。予想外の賞に、瑠奈は驚きながらも、心から喜んだ。
「長政さん、ありがとう。あなたの記憶のおかげで、特別賞を取ることができました。」
「なに、礼には及ばん。お主の実力じゃ!これからも、タイ語の勉強を頑張って、わしの名を世界に轟かせるのじゃ!」
長政は、高らかに笑いながら、瑠奈を激励した。
瑠奈は、長政の記憶という予想外のハプニングを乗り越え、タイ語スピーチコンテストで成功を収めた。
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