第13話 ロイカトーントラブル!
バンコクの夜空に無数の灯りが放たれ、幻想的な雰囲気が街を包むロイカトーンの日。瑠奈は、手作りのハスの形をした小さなボートにソムと乗り込み、ワクワクした気持ちで水面に浮かべていた。
「瑠奈、すごいね!このボート、自分で作ったの?」
ソムが感嘆の声を上げる。瑠奈は得意げに胸を張った。
「うん!ロイカトーンのために頑張っちゃった!可愛いでしょう?」
瑠奈の頭の中では、山田長政も興奮気味に話しかけてくる。
「おお!見事な出来栄えじゃ!瑠奈よ、さすがはわしの末裔!器用さはわし譲りじゃな!」
「長政さん、またまた〜。でも、喜んでくれて嬉しいよ」
瑠奈は心の中で答える。水面に映る無数の灯りを見つめながら、二人は静かに願い事を唱えた。ロイカトーンの美しい儀式に、二人の心は静寂と感謝の気持ちで満たされていく。周りの人々も、それぞれ思いを込めた灯りを水面に浮かべ、静かに祈りを捧げていた。
しかし、その静寂は、突然、予想外の出来事によって破られることになる。
「ブッ・・・」
瑠奈のお腹から、大きな音が響き渡った。
「え・・・」
瑠奈は自分の身に起きたことを理解するのに数秒を要した。そして、その数秒後、彼女は顔面蒼白になった。
「や、やばい!沈む!!」
手作りの小さなハスのボートは、瑠奈の体重と、そしてまさかの"事件"の衝撃に耐えきれず、みるみるうちに沈み始めた。
「きゃあああ!瑠奈!?」
ソムも驚きと恐怖で声を上げる。周りの人々は、突然の水音と二人の悲鳴に驚き、一斉にこちらを振り返った。
「大丈夫か!?」
「誰か助けて!」
周囲の人々が慌てて救助に向かう。幸い水深は浅く、瑠奈とソムはすぐに助け出された。しかし、二人の姿は散々だった。水に濡れて全身びしょ濡れ、おまけに瑠奈は泥だらけだ。
「瑠奈、大丈夫?怪我はない?」
心配そうに声をかけてくるソム。瑠奈は、恥ずかしさと情けなさで顔を真っ赤にして、蚊の鳴くような声で答えた。
「う、うん…大丈夫…」
「よかった…でも、一体どうして…」
ソムの言葉に、瑠奈は顔をさらに赤くする。頭の中で、山田長政が嘆きの声を上げる。
「武士の恥さらしじゃ…!瑠奈よ、なぜこのような失態を…!」
「うるさい!長政さんのせいでもあるでしょう!さっきから『腹が減った、何か食わせろ』ってうるさかったから…」
瑠奈は心の中で反論する。確かに、今日の夕食は軽めだった。屋台で買ったパッタイを食べただけだ。長政の「もっと肉を食わせろ!」という要求を無視した結果がこれだ。
「しかし、まさかボートが沈むとは…」
長政もさすがに反省している様子だ。周囲の人々は、二人の無事を確認すると、安堵の表情を見せながらも、どこか笑いを堪えているような雰囲気だった。
瑠奈は、周りの視線に耐えきれず、ソムに抱きつくようにして顔を隠した。
「もう、最悪…せっかくのロイカトーンが…」
「大丈夫だよ、瑠奈。これも思い出になるわ」
ソムは優しく瑠奈の背中をさする。瑠奈は、ソムの温かさに触れ、少しだけ気持ちが落ち着いてきた。
「でも、みんなに迷惑かけちゃった…」
「大丈夫、大丈夫。誰も怒ってないわ。むしろ、ちょっと笑ってるくらいよ」
「笑ってる…?」
瑠奈は恐る恐る顔を上げると、周囲の人々がクスクスと笑いながらこちらを見ているのが目に入った。
「あはは、君たち、大丈夫かい?」
「ハスのボートが沈んじゃったのかい?面白いね!」
「でも、君たちのおかげで、今年のロイカトーンは忘れられない思い出になったよ」
人々の言葉に、瑠奈は驚きを隠せない。怒られるどころか、むしろ感謝されている?
「え…?でも、私、ボート沈めちゃったのに…」
「大丈夫だよ。ロイカトーンは、悪いものを水に流して、新しいスタートを切るための儀式だからね。君たちは、そのお手伝いをしてくれたんだよ」
「そうだよ。君たちのハスのボートは、きっと私たちの悪いものを全部持って行ってくれたんだ。ありがとうね」
人々は笑顔でそう言ってくれた。瑠奈は、彼らの言葉に胸がいっぱいになった。
「そ、そうなんだ…」
「うん。だから、気にしないで。また来年、一緒にロイカトーンしようね」
「うん…!」
瑠奈は笑顔で頷いた。頭の中で、山田長政も感慨深げに呟く。
「ふむ…なるほど、そういう考え方もあるのか…勉強になったわい」
「でしょ?長政さんも、たまには現代の文化を学ばないとね」
瑠奈は心の中で答える。
こうして、瑠奈のロイカトーンは、予想外のハプニングに見舞われたものの、最後は周りの人々の優しさに包まれ、温かい気持ちで幕を閉じた。そして、この"不憫かわいい"エピソードは、きっと彼女のSNSで多くの反響を呼ぶことになるだろう。
「来年は、もっと頑丈なボートを作るからね!」
瑠奈は心の中で誓った。そして、来年こそは、山田長政と一緒に、心穏やかにロイカトーンを楽しめるようにと願った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます