第10話 象使いになりたい!でも無理かも...!
「マジでデカすぎ...!やばくない?」
アユタヤの象使い学校で、巨大な象を前にガチガチに固まる本能寺瑠奈。タイの観光業界で最近ちょっとだけ有名になってきた彼女は、新しい観光プランのリサーチで象使い体験に来ていた。
『なんじゃ、その腰抜けた物言いは!われらが時代のアユタヤでは、象は軍事において重要な...』
「いやいや、長政さんウザい!今はZOOM世代なんで、そんな古風な話されても...」
頭の中でうるさい山田長政をガン無視する瑠奈。前世の記憶を持って転生した彼女の頭の中には、いつもこの五月蠅い戦国武将がいるのだ。
「だってさぁ、これヤバくない?私、踏まれたら即死じゃん。インスタに『象に踏まれて昇天なう』とか投稿する前に死んじゃうよ?」
『スマホばかりいじっておって...わしらの時代は...』
「はいはい、戦場で象に乗って戦ったんでしょ?もう100回は聞いたよ〜。てか、私ただのインフルエンサー見習いだし!」
象使いの老師が近づいてきた時、瑠奈は急に緊張してしまう。
「コン・瑠奈、準備はできたかな?」
「あ、はい...多分?って、やばっ」
緊張のあまり、瑠奈のお腹から突然「ブボボッ」という音が。
「え、まじ無理...今のうちじゃない...」
顔が真っ赤になる瑠奈。目の前のトーンタイは、突然の音に驚いて鼻を上げ、キョロキョロし始めた。
『わはははは!女子になったかと思えば、このような恥ずかしい...』
「うるさいってば!これはね、緊張するとたまにあることなの!みんなそうだよ!」
老師は優しく笑って「象も同じようなことをするよ。気にすることはない」と声をかけてくれた。
「それ聞いても全然嬉しくないんですけど...」
トーンタイは、さっきの出来事を忘れたかのように、長い鼻を優雅に揺らしながら瑠奈を見つめている。
『さあ、恐れることはない!わしが教えてやろう。まずは...』
「ちょっと待って!長政さんの時代と今じゃ全然違うし!てかさっきのあれで私のメンタルやばいんですけど!」
老師は首を傾げた。「誰かと話してるのかい?」
「あ、いや、なんでも...ちょっとSNSのライブ配信の練習してただけです!」慌てて誤魔化す瑠奈。
『なるほど...確かにわしの時代とは違うかもしれん。じゃが、生き物との向き合い方に時代など関係ない。まずは、その生き物を理解し...』
「え?長政さん、珍しく現代的なこと言うじゃん!」
象に近づこうとする瑠奈だが、また緊張で「プス」っと音が...。
「もう最悪!こんなの絶対SNSに上げられるやつじゃん!」
しかし不思議なことに、トーンタイはむしろ瑠奈に興味を持ったように近づいてきた。
「えっ、もしかして...私のこと仲間だと思った?」
『象も笑っておるぞ!』
「爆笑されてるってことね...まあでも、これでちょっと緊張がほぐれたかも」
そうして瑠奈は、予想外の方法で象と打ち解けていくことになった。時々おならで笑いを取りながら...。
夕方、SNSをチェックする瑠奈。
「うわ!誰か動画上げてる...でも、意外とコメント好意的...?」
『現代の若者は、なんでも記録に残すのじゃな』
「まあ、これはこれでバズったし、いっか!#象使い見習い #失敗談 #タイでやらかした...っと」
『お主、さっきまでの恥ずかしがりはどこへ行った?』
「だってほら、今どきリアルな失敗談って結構ウケるんだよ!炎上しないレベルなら、むしろチャンスなの!」
『まったく、わからん時代になったものよ...』
「新しい企画のキャッチコピー考えた!『失敗しても大丈夫!ZOOM世代のための象使い体験♪』どう?」
『...わしには理解できん』
「うんうん、それでいいの!長政さんが理解できないってことは、それだけ現代的ってことだから!」
バンコクに帰る車の中、瑠奈は今日の出来事をストーリーにアップしていた。
「今日のまとめ:①象はデカい ②緊張したらヤバい音が出る ③意外と象は受け入れてくれる ④観光企画のネタになった!...っと」
『お主、本当に成長したのか逆戻りしたのかわからんな...』
「うるせー!これぞZ世代の生き様だし!」
そんな会話をしながら、瑠奈は満足そうに車の窓の外を眺めていた。確かに恥ずかしい一日だったけど、なんだかんだで良い思い出になりそう。
明日からは、この体験を活かした新企画づくり。今夜は疲れたけど、なんだか楽しい気分で眠れそうだ。
「てか、長政さん、私の頭の中で寝る時もおならすんの?」
『なっ!わ、わしはそのような...!』
「えー、気になるー!ねぇ、答えてよー!」
『うるさい!さっさと寝るのじゃ!』
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