第3章 新制中学1期生 その2

【2年2組の野球】


 クラス対抗の野球大会が春と秋行われることとなった。クラスは8組まであった。春、2組は決勝まで進み、1組と対戦した。林、阪本らの身長、体力にまさるクリンアップの打力の前に大差で負けた。負けて、塚田や司城ら選手たちは泣いていた。    かなりな練習をやってきたのだから無理もない。

久保先生が皆に近寄って声をかけた。選手たちにいたわりの言葉かと思いきや、「負けて泣くことがありますか。泣くぐらいなら勝つ努力をしなさい!」父と同じような事を言う先生だと思った。先生は負けず嫌いだ。

 それからの選手たちは、秋の大会に向けて、放課後は部活が使うので、朝早く校庭に集まって、毎日のように練習をしていた。野球部の笠本君なんかは、一日中、野球をやっていることになる。脇から見ていても涙ぐましい努力であった。広島行きを夢見て、真知子先生や田舎のメンバーと練習に励んだ日々を僕は思い出していた。


 こんな時、司城にチームのメンバーに入るように誘われた。僕が「NO」と言うと、「クラスが一丸となってやっているときに、お前は高見の見物か、能力がないならしゃないが」と言われた。えらく司城に見込まれたものだ。

 中学1年のとき、公園を歩いていたら、僕の足元にボールがころがってきた。「バックホーム!」声がした。キャッチャー目がけて思い切り投げた。ランナー滑り込む。タッチアウト。この時のキャッチャーが司城だった。この時はクラスを同じくしていなかった。

「練習にこれない奴もいる、前の日に連絡するから、練習だけでも手伝え」。司城はしつこい。練習メンバーが欠けるときだけ、早朝の練習に付き合った。久し振りに握る白球に、僕はやっぱり野球が好きだと思った。


 秋の大会が始まった。1組とはいきなり1回戦での対決となった。試合前、司城がキャップテンの長村君に、「練習に付き合った、田中もメンバーに入れてやってくれ。後半の代打でもよいから」と言ってくれた。1組は9名、2組は10名がホームベース上に列を作った。

塚田と司城のバッテリーの呼吸はバッチリで、内野に飛んだゴロは松田、加藤、の三遊間、セカンドの笠本の内野トリオが見事にさばく。1組も中々点を取れず、7回まで0対0で進んだ。先行の1組の阪本にホームランを打たれた。阪本は肉屋の子で、「やっぱり肉を食ってる奴のパワーは違う」と変なことに感心した。

9階の裏、この回トップの松本君がレフトオーバーの2塁打を打つ。次の司城が送って、ワンアウト、ランナー、サード。「笠っさん外野フライ打って!」の女生徒の声援に「まかしときー」と笠本君、一球目を強振したが、願い虚しく、セカンドフライ。打者長村君のとき、長村君が審判の先生に「ピンチヒッター田中!」と告げた。


バッターボックスに立った僕は、真一や真知子先生の顔を浮かべながら祈った。「打てますように!」…その時、サードにいた松本君が、ホームに滑り込んできた。ホームスチールだ。審判のジャッジは?…「アウト!」の大きな声がグランドに響いた。僕は1球も振らず1対0で試合は負けた。松本君は、たまに欠員が出たときだけ、練習に出ていた僕を、やる気があるのか、ないのかわからん奴と思ったのか、相手の隙を見たのか、それは分からない。

「僕には野球は縁がないないのや」と思った。以降、僕にとって野球は見るものであっても、するものでなくなった。

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