第3話 先輩

僕は中学校時代、サッカー部に所属していました。そして、そこで出会った一つ上の先輩が、今でも忘れられないのです。


その先輩は、正式に入部したのではなく、ふらりといつの間にか部員になっていた、という珍しい経歴を持っていました。

ただ、その先輩はフィジカルもそこまで強くなく、足元の技術も周りと比べてかなり拙かったのです。それが原因で後輩からもいじられることがあったぐらいです。サッカーに関係なく、たとえば遅刻は常習犯で、ひどい時には部室で用を足してしまったという事件もありました。

それでも、その先輩はとにかく献身的にボールを追うし、ピッチの外では誰よりも声を出して応援するのです。それはだれしも評価していましたし、チームにとってかけがえのない存在となっていたのは間違いありませんでした。

僕も先輩とのサッカー部での二年間は、非常に充実したものとなりました。


ついに先輩が卒業する時が来ました。その先輩だけ、県外に引き取られていく、ということで、特別にみんなで見送りしたのを覚えています。

気だるげな卒業式の後、濃密な斜陽を背後に、学校の玄関に集まったサッカー部員。先輩は無機質なかごの中で、僕たちをじっと見つめていました。そしてついに、そのかごを乗せたトラックが、無情にエンジンをかけ、走り去っていきます。僕らはいつまでも手を振っていました。

あの美しい毛並みの手触りと、先輩の最後の「ニャア」という言葉は、いつまでも僕の胸に刻まれています。

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