日常
僕と彼女の短くて長い同棲生活が始まった、僕は彼女に愛を囁き愛を返した。
僕は彼女を愛していた、僕は僕を愛していた。
僕は愛していた、僕は愛していた。
僕は愛して身を捧げ、彼女は愛して僕を食べた。
僕は僕を食らった、僕は僕に食べられた。
僕は僕となった、僕は僕でしかなかった。
醜い愛だった、血の味が滲む愛だった。
何よりも美味しい、愛だった。
だから僕は全てを忘れた、何もかも捨てたくなって。
無垢な自分を作り上げた。
何も知らない、何もない自分を生み出した。
僕が父となり、僕が母となり、僕を育てた。
僕とはつまり、僕なのだ。
ー3
目が覚めた、顔を洗う。
嫌な顔が、僕を見ていた。
ふと目を逸らし、僕はタオルで顔を拭く。
一見すれば20代にしか見えない母親が僕に対して朝食を作っていた、何を考えているのか分からない父親はもう既に仕事に向かっていた。
僕は制服を着ると、そのまま鞄を掴んだ。
母親が僕に対してお弁当を渡す、例もそこそこに僕は家の外に出た。
嫌な日光がそこにあった、僕は自転車に乗り走り出した。
風が心地よい、とても気持ちいい朝だった。
風が心地よい、とても大嫌いな朝だった。
しばらくすると校門が見える、当番の委員長に声を掛けた。
すると叱られる、自転車に乗って挨拶したことがダメだったらしい。
僕は自転車から降りて、挨拶した。
「おはよう、委員長」
「自転車を直すのが先じゃない? 15番くん」
「それもそうだ」
自転車を押して、歩く。
校内は活気良く、朝練をしている連中が僕の横を素通りした。
直後、僕の方が叩かれる。
「またな!!」
そこには見知った顔があった、僕は苦笑しつつ彼を見送る。
自転車を自転車置き場に仕舞う、そして図書館に向かった。
本は、母親の影響で好きだった。
難しい本は難しい、だけど新たに学ぶ事が好きだった。
僕は、何かを学ぶのが好きだ。
僕は、何かを学ぶのが好きなのだ。
「あ、おはようございます」
彼女が僕に声を掛けた、僕は少し笑いながら彼女に返事を返した。
丸メガネを掛けて、三つ編みを編んでいる彼女。
根暗で地味で、だけど僕に優しくしてくれる彼女。
日陰と日向の狭間のような、暖かさを持つ彼女。
僕はどうしようもなく、彼女に恋をしていた。
僕は彼女に本を手渡し、彼女はソレを受け取り事務的に処理をした。
その後に少しだけ会話をして、僕らは別れてしまい。
教室に行く道で、袴姿の彼と彼女が見える。
彼は彼女に何かを言っており、彼女は彼に噛み付くように何かを言い返していた。
お似合いのカップルだ、そう思いながら横を通ろうとすれば僕も巻き込まれてしまう。
ワアワアギャアギャア、いつも通りの騒がしさに僕は苦笑し息を吐く。
この日常が、とてつもなく愛おしい。
僕は好きだった、そんな日常が。
日常の終わりが聞こえてきた、いつものように扉を開けて僕は僕の席に座る。
日常の終わりが見えてきた、部活動をしていた生徒も誰も彼も関係なく教室に入った。
日常の終わりが迫ってきた、教師の姿をした何者かが教室のドアを開けて。
僕に向けて、こう告げた。
「お迎えにあがりました、ご主人様」
僕の日常は、こうして壊れた
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