転生トラック、郷愁を轢く その2

「三年です。三年だけ、あなたの故郷に滞在することができますわ」


 老人にそう告げると、ユカリはなぜかサングラスをかけた。大きなボストンバッグはどこから持ってきたのだろうか。すっかり旅行気分だ。カードゲームは何が好きかとユカリは老人に問う。


 生前の記憶がふっと降りてくる。家族や友達とよくアナログなゲームをした。記憶はまだ鮮明だ。この何気ない記憶もいつか薄れていってしまうと思うと恐ろしい。


 アズは社内では新入りな方。一番最後に入ったのがユカリ。その前がアズ。先輩社員も社長も気にかけてくれる。たまに社長が内緒でくれるドーナツは、味こそしないものの食べると元気が出る。ボーナスな、と言ってこっそり持ってきてくれる。今度、ドーナツ片手に社員みんなでカードゲームをしたくなった。ゲームマスターはユカリにしようとアズは考えた。彼女はアズの好きなゲームをよく知っていた。まぐれに過ぎないのだろうが、アズにとってそれは嬉しいことだった。光る廊下を歩く。いくら強く足で床を踏んでも音がしない。


「なんと言いましょうか。……ノスタルジックと言いましょうか。なんか違うかしら」


 老人の故郷に対して、ユカリが考えに考え抜いてそう評した。足を踏み入れたそこは、人のいなくなった集落だった。山が近い。トタンの倉庫らしき建物が風でがたがた音を立てている。


「もう誰も住まなくなって、こんなふうになってしまったんです。がっかりしたでしょう?特に長い黒髪の綺麗なお嬢さん、こんなに準備してもらったのにすみませんね」

「別に楽しみにしていたわけではありませんわ。あくまでも仕事ですので」


 ユカリが見え透いた嘘をつく。季節に合っていない、むしろ真逆なサングラスは外された。雪が積もっている。足音を楽しむことができないのをアズは残念に思った。


「あのぉ、別の願いを考えるっていうのは……」

「ええ。ここには見守るものなど何もありゃしないですわ」


 慌ててアズがユカリの口を塞ぐ。老人は笑った。美しい笑みだ。


「ここには何もないわけじゃあないんです。私の思い出があるんです」

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