転生トラック、郷愁を轢く

転生トラック、郷愁を轢く その1

 アズとユカリのコンビがその仕事を受け持ったのは、三年前だった。シチュエーションに凝るタイプの神が依頼主だった。人助けをして死んだ老人が異世界で転生し、その異世界で若返り、彼がふわふわな動物と戯れたりする世界が見たいとのことだった。


 その仕事を遂行するため、まずは実体を持ったアズが意図的に道路に飛び出した。そしてアズがユカリの運転する車に轢かれる前に、老人がアズを助けようと飛び出した。年齢の割に元気な老人だった。アズが突き飛ばされて、老人は車に轢かれた。ユカリが意識操作の魔導書を持っていた。使用した形跡はない。アズはその意味を理解した。


 その後はいつもの変化する部屋での聞き取りだった。伝統的で日本的な一般家庭の部屋であくびをする老人は、アズを見るなり微笑んだ。畳の匂い。テレビはバラエティ番組がつけてある。


「お嬢さん、無事だったんですか。よかった。お洋服が素敵ですね。汚れなくてよかった」

「残念ながらあなたは亡くなっておられますわ」


 ユカリが頭を下げる。きっかり九十度。それから、マニュアル通りの説明。老人はユカリによる説明を真剣に聞いた。自分の死に納得した様子だった。


「それで、お嬢さんたちは私の願いを叶えてくれると言うんですね」


 老人は紳士的だった。アズは敬意を持つとともに、申し訳なく思った。もう死んでいる自分を助けようとして死ぬなんて。けれどその勇気は意味のあるものだと信じた。


「あの、お願いはありますか」

「故郷をね、見守りたいんです」


 迷いなく老人が言う。話はケイコへと渡った。ケイコは資料を集めて、魂と老人の精神が耐えられる程度ならいいという旨をアズに伝えた。勇気の美しい老人の願いを、アズは一緒に叶えたいと思った。ユカリも同意してくれた。そのことがアズは嬉しかった。二人は仕事仲間で、そして親友である。

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