変わらない優しさ

「悪い音無!また頼むな!」

 そう言って教室の掃除を押し付けて出ていく同級生

 音無君はというと、にこにこと笑顔で掃除している。

「もー音無君、彼女ほったらかしにする気?」

「いやー肝心の伊織さんが帰っちゃって」

 伊織さんの行動に思わず私はズッコケそうになった。

 え、放課後一緒に過ごすとかじゃないの?連絡とかは?

「友達と過ごすからじゃあねーって」

「彼氏より友達か」

「予定入れてなかったし、そんなものじゃない?」

 予定捻じ曲げて何にでも彼氏とって依存のような事はしないと。

 依存して束縛が激しくて別れを告げられ荒れるより

 適切な距離感でお互いを知って行って

 歩み寄るなり別れるなりした方が健全ではある。

 本人が納得してるのならそれでいいか。


 それはそうと

「ウソでも良いから掃除を押し付けられるの断りなさいよ・・・」

「んーまあ予定あるみたいだし?」

「伊織さんという彼女と過ごすので無理、お前もやれって言えばいいのよ」

 断る理由が前は無くても今ならあるんだし

 ささっと複数人で終わらせてしまえばいいのに

 なんかこのまま放置するとホントにまた一人でやりそうだな音無君

「とにかく掃除終わらせるわよ、手伝うわ」

「良いよ別に。結月さんも帰って大丈夫だよ?」

「いいえ今回は何が何でも手伝う。音無君は人に頼る、使うを覚えなさい」

 そう言って帰っても良いという音無君の意見を蹴り飛ばして

 私は掃除を手伝う事にする。

 なんか危うさを感じるのよね音無君

 優しさが悪用されそうっていうのもある

 現にこうやって掃除を押し付けられているから。

 それとは別にこう

 ほっとけば皆の記憶から消すかのようにいなくなる気がするの。

 同時に誰かが見ていれば問題ない、とも思ってしまう。

 出来れば見る担当は彼女である伊織さんに任せたいところだけど

 肝心な彼女が友達と過ごすと言って彼氏である音無君の元にいない

「帰っても良いんだけどな・・・」

「私がやると言ったらやるの。良いから手を動かしなさい」

 ちょっときつめに言ったら諦めたのか掃除を再開した。


 そんな次の日

「伊織さん、これどうよ」

「いいじゃんそれ!」

 音無君は彼女である伊織さんと会話している

 話は盛り上がってる感じがするし、会話のネタが豊富なのだろう。

 音無君はにこにこ笑顔を向けてるし

 伊織さんも笑顔を浮かべて会話に花を咲かせ続けている。

 ふむ、私の取り越し苦労だったか?


 そう思いながら一ヶ月の月日が流れた

「—――なんだ伊織さん」

「へぇーこれそうするんだ」

 変わらずあの二人は会話に花を咲かせている。

 今は中間テストを勉強中

 音無君は自身の勉強をしつつ伊織さんの勉強を見ている姿を

 私はお似合いだなーって思う。


 ただちょっと気になる会話を聞いてしまったのがアレだが

「伊月、ちょっと彼氏の事で聞いてよ」

「何よ、惚気?」

「いや愚痴。優しくてこっちを気遣ってくれてるんだろうけどさ

 エッチぃ事に消極的なのよ」

「良いじゃんそれでも。どこまで行ったのよ」

「Aすら行ってない」

 と、気だるいといった様子をしながら伊織さんは

 友達である伊月さんに彼氏である音無君の愚痴を言ってる。

 本人がいないからしてるんだろうけど

 周りがそれを聞いてる事を考えてないのだろうか。

 愚痴の内容としては

 音無君はプラトニックな関係を望んでるのだろうか

 伊織さんとの性的な接触を拒んでるとの事。

 そこは本人同士で話し合って落としどころを決めないといけないが

 音無君はそういうのをしてないのかな?

「伊織から誘えばいいじゃん」

「それ私ががっついてるようで嫌なのー私は求められたいのー」

 男なんだからリードしてほしいのよと

 机の上にだらっとなりながら伊織さんはぼやいている。

 あー察してちゃんかな。で、音無君は必要ないと思って行動してないと。


 なんとなく言わないと駄目な感じがするのよね音無君って

 優しさが通り過ぎて邪魔になってる奴だこれ。

 まあどうにでもするでしょと私は軽い気持ちで考えていた。

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