第4話 決戦は校舎裏
「わたくしを呼び出すなんて、どういうことか分かっているんでしょうね」
校舎裏。
木々がやや早く風にそよぎ、昼間まで青空から注いでいた日の光は、重たい雲に隠れてしまっている。
昔テレビで見た決闘のシーンでも始まりそうなほど、どんよりとした空気が流れていた。
私に呼び出されたフィリアはいつも通り取り巻きを連れ、腕を組みながら私を睨みつけている。
普通、こうやって身分の下の者が上の者を呼び出すことなどあってはならない。
だから本来は彼女も、私の呼び出しになど答えなくともよいのだ。
しかしその上で来たということは、多少自分のしたことに後ろめたさがあるのだろう。
「ええ。もちろん分かっていて、お呼びした次第ですわ」
「まぁ、図々しい」
「ではお聞きしますが、まずなぜ、フィリア様は私に嫌がらせをなさるのですか?」
そう、これがまず聞きたかったのよね。
たぶん状況的にはどこかのルートに入っているからだろうと思うのだけど、肝心の相手も動機も分からない。
フィリアの婚約者はこの国の王太子様。
たぶんその関係だとは思うのだけど、直接的な接点があった記憶がないのよね。
別にこっちから言い寄ったこともないし。
記憶が確かなら、学園に入って数回会話したくらいなはず。
ただ会話しただけでこんな嫉妬されても困るのよね。
「あなたがわたくしの婚約者であるトレス殿下に色目を使うからではないですの!」
「色目って、私は別に何もしていません」
「嘘おっしゃい! ハンカチを渡したり、ノートを見せたり。それにこの前は二人で歩いているのも見たんですわよ」
ん-。これは一から全て説明しなきゃダメかしら。
だけど目の前で今にも泣きそうにヒステリックに叫ぶフィリアを見ていると、全部解説しないと事態は収まりそうにもなかった。
「ハンカチは飲み物をこぼされて困っていたので、近くにいた私が貸しただけです」
「婚約者のいる殿方にハンカチを渡す意味が分かっていないと申しますの?」
「そうではなく、困っている人にハンカチすらフィリア様なら貸さないおつもりですか?」
「……」
いや、さ。
貸されたくないなら、付きっきりで見張ってて自分が貸してあげればいいじゃない。それか、飲み物こぼした殿下にクレーム言うとか。
親切にしたことを怒られるって、ホントどうなの。
「それにノートは授業をサボっておられた殿下から、私に貸して欲しいと言われたものです」
「では、では! 二人で歩いていたというのは、どう説明するんですの」
「これだけのことをしてあげたので、食堂でお礼のために食事を奢ると言われついて行っただけです。二人でと申されますが、校内にも食堂にもたくさんの生徒がいますし」
密室で会ったとか、デートしたとかなら分かるけど。
ただ食堂で奢ってもらっただけなのに。
タダ飯サイコーって思ったけど、婚約者持ちについていくとこんなイベントが発生するのね。
さすが乙女ゲーム。
なんでもかんでもだなぁ。
本命見つけたら、慎重にしないと大変ね。
と言っても、誰が攻略対象なのかも分かんないんだけど。
「そうだとしてもです。殿下は最近、あなたの話しかしない。優秀だとか、あの髪色が素敵だとか……」
「その文句はむしろ、私にではなく殿下に言ったらいかがですか?」
「いいえ。わたくしは殿下の婚約者。そんなことは絶対にいたしません」
「ですがそれで私に数々の嫌がらせをなさるのですね」
ダメージは全然なかったけど、なんだかなぁ。
動機がイマイチなのよね。
いや、私の行動がイマイチなのか。
もっとこう、私がトレス殿下に猛アピールしてたらいい感じなのかな。
でも……ん-。
問題が一つあるのよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます