第3話 精一杯の嫌がらせ

 翌日から、奇妙なことが学園の私の周りで起こり始めた。


 初めは、上靴の中に入れられた一個の画びょう。

 どこかの掲示物から落ちたのかと、それをロッカーの上に置くと、次の日には上靴いっぱいにこれでもかと画びょうが入っている。


「うん……ん-。さすがにこれは……」


 どうしようかと考え、私は辺りを見渡す。

 朝早い学園の下駄箱には、まだ誰もいない。


 そう考えると、昨日の学園が終わってから入れたのか、私が来るよりも前に来て入れたのか。

 どちらにしても、大変だっただろうなぁと、関心する。


 昨日は一個だったから、ロッカーの上に片づけたけど。

 こんなに大量だもんなぁ。

 入れ物探しに行くのもめんどくさいし……。


 うん、そーだ。


 私は自分の上靴をそのままひっくり返す。

 するとたくさんの画びょうたちは、見事に下駄箱の床一面に広がっていった。


「入れた人が片づければいいよね。私のせいじゃないしー」


 我ながら名案だとばかりに、上靴をはいて教室へ向かった。



 その翌日。

 今度は机の中に、小さな虫取り器が入れられていることに気づく。

 

 ご丁寧に教科書たちは、後ろのロッカーに仕掛けた人が片づけてくれたらしい。

 

「ん-。どうしようかな」


 昨日が画びょうで、今日が虫かぁ。

 あの画びょうも結構大騒ぎになったのよね。

 何せ、大量だったし。


 まぁ、私のせいじゃないけど。


 机の中から取り出した虫取り器片手に、またふと考える。

 どうしたものか。


 うん、そーだ。


 私は教授の使う机に、そのままソレを突っ込んだ。


「よし!」


 証拠隠滅~。

 だいたい犯人の目星は、あの方じゃないかって思うけど。

 でも違ったら困るもんね。


 その点教授は困ったことがあったら~って言ってくれてたし。

 お片付け、丸投げしちゃお。


「授業を始めるぞ~、って、おい、何だこれ! 誰だ、こんなもん入れた奴は!!」


 案の定教授は来た途端、大きな声を上げた。

 そして取り出した虫かごを見て、辺りは騒然となる。


 悲鳴を上げる女子生徒や、犯人は誰かと探し始める人たち。

 

 フィリア令嬢たちの方を見れば、顔を真っ赤にしながらこっちらを睨みつけていた。

 ん-。なんていうかなぁ。


 やったのバレバレじゃない。

 令嬢たちが虫捕まえてる姿なんて想像は出来ないけど、基本的に学園内に使用人を入れることは出来ない。


 少なくとも私の机にアレを入れたのは、三人のうちの誰かだ。

 きっと虫なんて好きじゃないだろうに。

 頑張っても空回りしちゃってるし、可哀そうかな。


 今だって、もっと私を追い詰めるならいい方法があるのに……。


 そこまで考えてふと思考が止まる。

 うん……なんていうか、生ぬるい? ん-。しょぼいのよね。


 レパートリーも少ないし、インパクトにもかける。

 これじゃ、全然悪役令嬢になってないじゃない。

 

 私が夢にまで憧れた世界じゃないわ。

 

「……あ、そうだ」


 我ながら良いことを思いついたとばかりに、放課後フィリア令嬢たちと対峙することを決め、早々に呼び出したのだった。

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