第2話 憧れの異世界転生
「嘘でしょう。嘘……」
私は人知れず、言葉をこぼす。
だって、転生したっていうことは、一度死んだってことよね。
えー。なんで死んだんだろう。
でもそれがまさか、夢にまで見た転生だなんて。
キョロキョロと辺りを見回し、人がいないことを確認すると、私は足早に木陰に隠れる。
ああ、ここならきっと誰の目にもつかないわ。
そしてもう一度だけ人目を確認すると、ウキウキとした気分を押さえられずに叫んでいた。
「ステータス、オープン!」
一度言ってみたかったのよ、これ。
だって前の世界でやったら、タダの痛い人だし。
いや、今だって誰かに見つかったら十分痛い人ではあるんだけど。
でも、どーーーーーしてもやってみたかったの。
すると私の期待に応えるように、小さな
「キタキタキタキタキター」
これがあるってことは、普通の異世界転生じゃなくって乙女ゲームとかそっち系ってことよね。
あー。こんなことならラノベとかだけじゃなくて、そっちも
ゲーム機は高いし、スマホは
いやぁ、残念過ぎる。攻略法とか進め方とか全然わかんないじゃない。
「いや、まぁ、そもそも恋愛って……」
私が生まれて死ぬまで、何年あったっけ。
まぁ、若くはなかったと思う。記憶がかなり
でも、一度だって彼氏いなかったもんなぁ。
いわゆる
でも今更死んでしまったんだから、
憧れの世界に来れたんだから、今度こそ人生を楽しまなきゃね。
「で、ステータスはどうなっているのかな」
私は一つずつ確認していくことにした。
ステータス―――――――――
ファーナ・オルコルト 16歳
オルコルト子爵家の長女
称号
職業 学生
体力 30
精神力 50
根性 80
攻撃力 5
俊敏 10
幸運 18
固有スキル
毒耐性 レベル3
恐怖耐性 レベル2
孤独耐性 レベル3
状態異常無効
「うん。思ってたんとなんか違う!」
もうこれは声を大にして言いたい。
数値の凄さっていうのは全く分からないけど、称号の薄幸って何よ。
前世だってさぁ。
親は論外だったし、友だちもいなかったでしょう。
就職先は驚くほどブラックで、イイコトなんて何一つなかったっていうのに。
でも称号よりも酷いのが、スキルだよね。
なんかヒロインにそれって必要? ってのしかないじゃない。
もっと聖女~とか、愛され~とか。そういうの想像してたんだけどなぁ。
定番は光とか、聖なるでしょ、ふつー。癒しの手とか使えたらサイコーなのに。
なんか暗殺者っぽいのしかないじゃん。
「毒……恐怖、孤独……。もしかして、このスキルって前世から引き継いだ系なのかな。ないよりはあった方がよさげなスキルではあるけど」
魔法……は聞いたことなかったっけ。この世界にはないっぽいな。
仕方ない。スキルもないよりはマシだと思おう。
でも毒耐性って。
昔、何か食べたかなぁ。
口元を押さえながら下を向いていると、木々が風に揺れた、
人の気配。
私は急いで視線を見上げる。
そこには心配そうに私をのぞき込む男性の姿があった。
「大丈夫か、オルコルト令嬢」
背が高く、細身のその男性は、やややる気のなさそうに薄緑の頭をかきながら声をかけてきた。
神経質とは真逆のようなその存在は、服も髪型もよれており、イケオジというには程遠かった。
「えっと先生?」
「なんでそこが疑問符なんだよ。おまえの担任だろが」
「あー、そうでした、そうでした」
記憶を一気に取り戻してしまったことで、頭の中が少し混乱してしまったみたい。
でも彼は確かに私の担任だ。
こんな成りでも、一応教授らしい。
「アザーレ教授35歳、独身。彼女ナシ。よし、ちゃんと覚えてる」
「おい。なんでそこを全部読み上げる。っつーか、何見てそんなスラスラ人のことを言ってるんだよ」
「え、あ、記憶力いいんです」
これは本当。
昔から変なとこだけ記憶力いいのよね。
「そんなことより、何かありましたか?」
「それはこっちのセリフだ。おまえが他のヤツに嫌がらせを受けていると、生徒から助けを求められて大急ぎで来たんだが」
おー。
わざわざ教授を誰か呼びに行ってくれたんだ。
すごいすごい。
ちゃんとした人もいるんじゃない、この世界。
お友達になりたいな。
「怪我はないか?」
「へ? 怪我っていうか、そもそも、嫌がらせなんて受けていませんよ?」
「は? なんだ、それは……。見たって奴らが数人いたんだが」
「ん-。いや、たぶん
「おまえ、難しい言葉使ってごまかそうとしてないか?」
「いえ? 事実を言ったまでですよ」
だってアレが嫌がらせだなんて。
まぁ、貴族の子にとったらあれぐらいでも嫌がらせにあるのかもしれないけど。
実際の被害は手が濡れただけ。
しかも今は真夏よ。
たとえ頭から水をかぶったとしても、私なら嫌がらせって思えないかもなぁ。
さっきも思ったけど、あれが効果を発揮するのは真冬くらいよね。
これじゃあ、風邪もひけやしない。
一人納得する私に、アザーレ教授はなぜか深いため息をついていた。
「何にもないならいいが。だが一人で抱え込んだり、無理はするなよ。何かあったらすぐ相談しろ」
「んー、はい、了解です!」
私が元気に右手を上げれば、教授は心底呆れたような瞳をしていたが、私はあえて気にしないことにした。
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