第3話 憧れの人
私は満員電車から突き飛ばされて転んでしまった。
そして立ち上がれなくなってる私の前に、少し年上だと思う男の人がいた。
近くで見るとさらに顔が良い。
私は毎日、朝の通学の電車でその人を遠くから眺めるのがちょっとした楽しみだった。
その人が私の前にしゃがんで手を伸ばしてくれている。
…夢じゃないよね?
私は頭が処理しきれなくて固まってしまう。
男の人が「もしかしてどこか怪我した?」と聞いてくれる。
私は慌てて「大丈夫です」と答えながら手を取る。
その人は私を立ち上がらせてくれる。
そして、ホームのベンチまで手を引いて連れてきてくれた。
「ここでなら落ち着けるかな?駅員さんを呼んできた方が良い?」
男の人はがそう聞いてくれる。
流石に怪我をしていないのにそこまで迷惑をかけたくない。
私は断りとお礼の言葉を口にする。
それよりも先に「
声がした方を向くと、
「…お友達?」
「あ、はい。あの子も来たので大丈夫です。ありがとうございました」
「そっか。じゃあ気を付けてね」
私がお礼の言葉に男の人は笑顔でそう言って改札に向かう階段へ去って行った。
…あの人と喋っちゃった。
それどころか、手まで握ってしまった。
……本当に夢じゃないよね?
「実来!やっと見つけた!」
私が今の出来事を噛みしめていると、由乃が迎えに来た。
由乃は座ってる私の正面まで来て、心配の言葉を口にする。
「大丈夫?というかさっきのあの人…実来の好きな人だよね?」
「ち、違う!毎朝目の保養にさせて頂いてる人!」
「…名前は聞けた?連絡先は?」
「聞けるわけないでしょ!それに、遠くから見てるだけでいいの!」
「その割には…顔赤いよ?」
その言葉で私は両手でほっぺたを触る。
…確かに熱い。
私は余計に恥ずかしくなって話題を逸らす。
「というか!誰のせいであの電車に乗ることになったと思ってるの!私突き飛ばされたんだからね!?」
「そ…それは……ごめんね?…でもあの男の人と喋れたからいいじゃん!」
「それはそれ。これはこれ」
私がそう返すと由乃は「え~~!?」と言いながら私の顔を見てくる。
私は少し頬を膨らませて由乃の目を見る。
「…………では、今週末の映画の時に飲み物をおごらせて頂きます」
「いいでしょう。今日の寝坊を許します」
私と由乃は同時に笑い出す。
由乃とこんな感じの軽口をたたいてる時が一番落ち着く。
そう思ってると由乃が口を開いた。
「ところで、本当に怪我してないの?」
「うん。転んだだけ。…私を突き飛ばした人は?」
「なんか駅員さんが忙しそうだったから捕まったんじゃない?ひったくりか何かだったんでしょ?」
「そっか。それならよかった」
そんな話をしているとホームからまた電車が出ていった。
…あの電車は私達が乗ってた電車の次の電車だよね。
私はようやく大事なことに気が付いた。
「…今何時?」
「えっと…ヤバい!本当に遅刻する!!」
由乃がスマホを見てそう叫んだ。
「急がなきゃ!!走るよ!!」
私は立ち上がって由乃と乗り換え用の改札に向かって走り出した。
人ごみの中でも、かすかに聞こえるパトカーの音を聞きながら。
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