第5話 地獄の様相
赤黒い4本足の何かがショッピングモール1階の広場に突然現れた。
それを見た人々はパニックになっている。
当然、私も
とりあえず私達はエスカレーターを下りて私の両親の所へ走り出す。
それとほぼ同時に、赤黒い4本足の何かは前足と牙のようなもので周りの人を襲いだす。
広場にいた人は次々に襲われ、倒れていく。
私は「お父さん!お母さん!」と叫びながら走りだす。
両親は私に気づいてこっちへ走ってくる。
しかし、お父さんとお母さんは背中からその何かに襲われて地面にそのまま倒れた。
私の口からは言葉にならない叫びが出る。
無我夢中でお父さんとお母さんの所に走る。
でも、進めない。
その違和感に気が付いて振り向く。
由乃が私の腕を掴んでいた。
「離してよ!!」
「だって、逃げないと!!」
私は由乃の言葉で我に返る。
お父さんとお母さんを助けたい。
今ならまだ間に合うかもしれない。
でも、動けない2人を連れてあの何かから逃げれる自信はない。
反対側を向いていた何かと目が合った。
口からは赤い液体が垂れている。
何かはゆっくりとこちらに向けて歩いてくる。
「
私は由乃の叫びと共に走り出す。
でもそれは、両親の方へではない。
逃げるために。
周りには他にも赤黒い何かが。
4本足じゃなくて、人に近い形をした何かが人を襲ってる。
1階はもう駄目。
でも、2階ならきっと大丈夫。
私は由乃の背中を追いながらエスカレーターを駆け上がる。
だけど、2階も既に手遅れだった。
2階でも赤黒い何かが人を襲ってる。
ショッピングモールの中は人の悲鳴が響き渡り、血の臭いが充満している。
どこにも逃げ場はない。
でも、立ち止まってると襲われる。
でも、どこに行けばいいのかわからない。
エスカレーターを登り切った私達は立ち尽くす。
どこか…逃げる場所…。
1つ心当たりがある私は口を開く。
「…映画館。劇場の中なら、まだ大丈夫なんじゃないかな」
「でも…2階もこれなんだよ。きっと中も…」
「…確かに大丈夫かわからないよ。でも、わからないなら行ってみなきゃ!」
「そう…だよね。……うん、行こう」
私達はもう一度走り出す。
さっきまで居た映画館に向けて。
途中で赤黒い何かが襲ってくる。
私達は何とか避けながら走り続ける。
そしてエスカレーターを駆け上がる。
降りてまた、次のエスカレーターに向けて走る。
そうやって何とか、映画館まで戻ってきた。
でも既に、映画館にも赤黒い二足歩行の何かがいる。
息を切らして肩で呼吸する私の鼻と口に血の匂いが入ってくる。
「…劇場の中はきっと大丈夫。行こう」
私はそう呟いて、進む。
でもそれは、自分の意思を由乃に伝えるためじゃない。
折れそうな心を奮い立たせるため。
私達は無人となった映画館の入り口を通り抜ける。
まだここには血溜まりとかはなかった。
私は1番奥のスクリーンを目指して走る。
劇場内の廊下を曲がる。
突き当たりの劇場はすぐそこ。
そのとき「ドサッ」という音がした。
振り返ると由乃が転んでいた。
私は由乃の名前を呼びながら、引き返そうとする。
由乃の後ろから赤黒い何かが追いかけてきている。
早く由乃を起こさないと。
「実来駄目!先に行ってて!」
「でも!」
「すぐに追いつくから!扉開けてて!」
私は仕方なく、また奥に向けて走り出す。
後ろから足音は聞こえる。
由乃は大丈夫。
そう思いながら、劇場の扉を開ける。
「由乃!早く!」
そう叫んだとき、すぐ近くの地面から赤黒い何かが現れた。
そして、由乃の後ろには下で見た4本足の何かまで見えた。
閉めないと私まで襲われる。
でも、由乃を見捨てたくなかった。
お父さんとお母さんを見捨てたのに、由乃まで見捨てたくなかった。
私には、もう由乃しかいないのに。
由乃はもうすぐそこまで来てる。
飛び込んできたと同時に閉めれば間に合う。
でも、由乃は飛び込まずに劇場の扉を閉めた。
その直後、扉の向こうからかすかに由乃の悲鳴が聞こえた。
「由乃……何で……?」
私は無意識にそう呟いた。
そして、私の視界は暗転した。
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