第5話 【服従】魔法を掛けられております
日時不明────
先程の魔族は余程腕に自信があったのだろう、単騎でこのナジーブの街を陥落させようとしたようだ。レミリスさんと二人で軽く周囲を見て回ったが、悪魔や魔物の姿は確認することが出来なかった。
──パチパチパチパチパチパチパチパチ…
「ユウトさん!!凄いです!!本物の勇者ウェルド様が、アニメの世界から出てきたみたいでした!!聖剣ヴェルデュルグは…どういった仕掛けなんですか?」
ちょうど街の端の辺りまで、レミリスさんときていたのだが、急に僕に向かって拍手を始めたと思ったら、先程の“勇者ウェルド”について話を始めた。
「ま、まぁ…僕、2.5次元俳優でメシ食ってるので…。」
「ええええっ?!スミマセン!!私、勉強不足みたいです…。ユウトさんが2.5次元俳優さんってこと、知らなかったので…。」
僕もまだまだって事だろう。さっきの魔族が僕にとって本当に良い…反面教師になっている。きっと名のある魔族だったのかも知れないが、結果はこうなっている。
勇者ウェルドの前では名乗る暇もなく、断末魔の叫びすら叶わず、無力だった。
「レミリスさん?謝らないで。僕が、今の現状で満足してたのが悪かったんだ。うん…。決めた!!僕は、この世界の皆んなの希望になれるような、真に迫る勇者の【演技】が出来るように精進するよ!!」
「あ、あのっ…!!」
──ムギュッ…
「え…っ?レミリス…さん?」
急にレミリスさんが、僕に抱きついてきたのだ。紐かと思うくらい面積が殆どない布を、申し訳程度に身に纏っているだけなので、レミリスさんの胸などが、ほぼダイレクトに僕の身体に当たっている。
そういえば、レミリスさんはどうしてこんな格好しているのだろう?
「私…。ユウトさんに、助けていただいたのに…ちゃんとお礼出来ていませんでした。なので、こんな私ですが…貰っては頂けないでしょうか?もし…ユウトさんが飽きたら、私のこと…売るなり捨てるなりして頂いて結構ですので…。」
何を言っているのか、途中から意味が分からなくなった。僕への謝礼は、自分の身体で…という意味だろうか?
「分かった。でも、自分を安売りするのは…頂けないな?これで、最期にして欲しい。それと…さ?どうして、レミリスさんは…そんな恥ずかしい格好してるの?」
格好いいこと言っているように見えるが、レミリスさんからの申し入れについて、僕は断ってはいない。こんな可愛い子が自分のモノになってくれるって言うんだ、例え罠だったとしても、男のロマンや夢があると言うものだ。
それに、こんな異世界に転移させられてしまってる以上、どうせ誰かと付き合うのなら、地球からの異世界人が良いなと思った。あと、レミリスさんは日本人のクォーターだし、アニメも詳しそうだから、魔族との戦闘前に少し話した際、実は…付き合えたら良いなとは思っていたので、願ったり叶ったりだ。
「良かった…。ユウトさん、受け入れて頂いて、ありがとうございます。あはは…。やっぱり…私のこの格好、気になりましたよね…。実は…です…ね?」
────
僕はレミリスさんに、ひと気のない街外れにある石造りのような小屋まで連れてこられていた。
この街の住人や旅人たちは、魔族によって壊されてしまった建物や施設の片付けや、巻き込まれた人たちのトリアージュのような事を始めていた。
「実は…私、この世界に転移させられてきた夜、一度…自殺したんです。」
「ああ、その話は…ヨシュアさんから聞いた。」
「家の中で、自殺したはずなのに…家の外の転移させられてきた場所で、また倒れていたんです。それが、私の人生初の【死に戻り】体験でした。朝が来て、私は…能力鑑定所へと連れて行かれました。そこで、私は【死に戻り】スキル、【回復】系魔法、【蘇生】系魔法を授かってきたことが判明したのです。」
ここまで話を聞いたが、自殺した事を除いては普通に聞こえた。
「それもヨシュアさんから聞いたよ。」
「能力鑑定所を出た途端でした。同行していた、私が倒れていた庭の所有者の男性は目の色を変え、私に対してこの小屋で“怪我など”の施術をし、お金を稼ぐようにと命令してきたのです。更に、『自分のことは、ご主人様と呼ぶようにしろ!!』とも命令されました。」
【回復】系魔法での、怪我等の治療でお金を取る…か。ビジネス的には成り立つだろうな。【蘇生】系魔法も使えるんだから、瀕死の人が運び込まれても大丈夫か。
「うーん。仮にも施術をするんだから、調度品が色々足りない気がする…。ベッドだけって…。」
「はい…。ユウトさんのご指摘のとおりです…。実際には”怪我など“の施術という名目でここに来店させ、私の身体を…弄ばせて愉しんでもらうという商売だったのです…。」
さっきまでレミリスさんは、僕に対して気丈に振る舞っていただけってことか。これで、身に纏っている紐のような布にも合点がいく。
「もう、レミリスさんは…僕が貰ったんだ。だから、正直に教えてくれるかな?男たちから、いっぱい…酷いことされていたのかな?」
「い、いえ…。ユウトさんが想像されているより、そこまでの酷いことは…されていないと、思います…。ご主人様が『お前を知ってもらう、お試し期間中だからな?当分本番させずに焦らしておけば、言い値で値段も上がるだろうしな?』と言っておりました…。実は、先程も…お客様の相手をさせられていたのですが、外がああいう状況になり、お客様もやけになられたようで…。」
レミリスさんからの真実の告白を聞いて、少しホッとしている自分がいる。やはり…折角、レミリスさんが僕のモノになったのに、いきなり壊れかけていては…やはり愛着が湧かないからだ。
「じゃあ、僕をお客様だと思って、相手してくれるかな?」
僕は聖人ではないので、自分の欲望には正直に生きたい。欲望を我慢したせいで、僕が居ない隙を狙われて、誰かに奪われるくらいなら、先に奪ってしまっておけばいい。
──ガチンッ…
「はい…。内鍵掛けましたので、ご主人様も入ってこれないと思うので…。」
未だに、この小屋の所有者の男のことを、ご主人様と呼ぶことに僕は違和感を覚えた。
「どうして、レミリスさんは僕が居るのに、酷い扱いをしてきた男の事を、ご主人様とまだ呼ぶのかな?」
「私が【死に戻り】した際に、ご主人様から【服従】魔法を掛けられております。ですので、ご主人様から命令されたことは、絶対なのです…。」
うら若き女性が、抵抗もせず命令に従っているなとは思ってはいた。まさか【服従】の魔法によって、強制的に命令に従っているだけだったとは。
扉の内鍵を掛けたからと言って、外からご主人様とやらに、『開けろ!!』と命令されれば終了だ。
一刻も早く【服従】を解除する方法を、と考えていたら、ある人物の事が頭に浮かんだ。
「【演技】勇者ウェルド!!」
──キラッ…!!
見る見るうちに身に纏っている衣装が重みを増していく、背中に斜め掛けしている聖剣ヴェルデュルグも例外ではない。肩へとズシリとした重さがきている。
「なあ?ヴェル。【服従】魔法はどう解除すれば良い?」
──「なぁんだ。そんな事で私に逢いに来てくれたのか?ユウトは。」
「ああ。悪いか?」
今、確かに…ウェルドではなくユウトと呼んだよな。今はウェルドを演技中だから、ユウトとして喋ると【演技】が解除されれしまう。
「そこの、おなごの事だろう?さっきも居たな?【死に戻り】させるのが早いな。【服従】は生きてる限り有効だが、死ねば解除されるからな?」
「分かりました!!ヴェル様…ありがとうございます!!では…またお会いしましょうね?次は、綺麗な身体の私で…。」
レミリスさんが何を言ってるのか、一瞬理解出来なかった。
──ブシュッ!!ブシャアアアアッ!!
──バタッ…
目の前で、レミリスさんが首の頚動脈の辺りに刃物を当て、一気に引いた。
夥しい量の血が首から吹き出し、レミリスさんは床へと倒れた。すると、僕は貧血状態の時のように、目の前が急に真っ暗になり、ヴェルが何か言っている声も遠ざかっていった。
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