第3話 能力鑑定結果を申し上げます
日時不明────
「異世界人、名前は?」
あの後、ヨシュアさんの後を追いかけて、何かの祭壇のような構造物が壁際に置かれた、光溢れる神々しい部屋へと僕は来ていた。
その構造物の前で、ルエステと呼ばれる老齢男性と僕が向き合うように立っている。その様子を、ヨシュアさんが入り口の扉を塞ぐような形で、離れて見守っている。
「僕の名前は、増田ユウトです。」
「なんと…日本人か。長い間見ていないな。では、いきなりで悪いがな?この世界では、苗字などは存在しないのだ。それでは、ユウトで良いかな?」
僕の名前を聞いただけで、ルエステさんは日本人だと分かったようだ。それにしても、どうして僕の言葉が皆理解できるのだろう?これも何か、転移者へのみ与えられた能力なのだろうか。
「はい。」
「それでは、ユウト?能力鑑定するとしようか?私もヨシュアさんも、ユウトには期待しておるのだ。」
先程、この建物の門扉を開閉していた、クアラという魔法を使っていた老齢女性は、『過度な期待は禁物』と言っていた。人によって温度差があるようだ。
「それでは、いくぞ?【能力鑑定】ユウト!!」
──ピロッ!!
この世界にはそぐわない、スマホの通知音のような効果音が部屋に響いた。
──「能力鑑定結果を申し上げます。」
続いて、スマホの音声アシスタントの女性版のような声が聞こえてきて、思わず吹き出してしまいそうになるのを、目を瞑り顔を足元に向けて堪えるのに必死だった。
──「ユウトの所持能力は、【演技】スキル。」
──「以上です。」
──ピロンッ!!
能力鑑定結果の読み上げが終わったようで、スマホの通話終了のような効果音が鳴った。
【演技】スキル?どういったスキルなんだ?それより、そのスキルだけなのか!?
「アハハハハハハハハッ!!こりゃ参った!!おかしすぎて腹が捩れるわ!!アハハハハハハハハッ!!」
「アヒャヒャヒャヒャッ!!はいっ!!前代未聞ですねぇ?ルエステ様!!ハハハハハハハハッ!!」
僕の方を見て、ルエステさんとヨシュアさんが腹を抱えて、笑い始めてしまった。
「一体、どういう意味でしょうか…?」
「アハハハハハハハハッ!!勝手に【演技】スキルでも使って、演劇でもしておれよ?期待外れの役立たずめが!!これ以上、失望させるでない!!早くこの街から出ていけ!!」
「散々、期待させておいてよぉ?失望したぜ!!」
異世界人だから特別な能力満載だと、この二人は勝手に期待していたのだろう。僕が【演技】スキルだけと知ると、散々嘲笑した上で、失望の目を向けてきた。
──カンカンカンカンカンカンカンカンッ!!
そんな時だった。突如として非常に短い感覚で鐘の音のような音が、外から響き渡ってきた。
──ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!
次の瞬間、警告音が建物内に鳴り響いた。これもこの世界の魔法の力を利用した技術なのだろうか?
──「警告!!警告!!」
──「全員、直ちに防衛迎撃体制へ移行してくだい!!」
──「警告!!警告!!」
またもや音声アシスタントににた女性の声が響き渡る。絶対、外では何かが起きているに違いない。
「どうしてこんな時に!!では、私は逃げる!!【空間転移】!!」
──ビュンッ…
「あっ!!」
一瞬音がしたかと思ったら、ルエステさんの姿は僕たちの目の前から消えていた。
「さて?逃げられちゃいましたね?色々…言ってくれてましたが、ヨシュアさんは何か能力お持ちなのですか?」
「俺か…?【売買】【交渉】【鑑定】【解除】等、商売するスキルしか持ってないんだ…。だから、戦えないんだがな…。【演技】よりはマシだろ?」
ファンタジーアニメでいうと、商人的な感じか。ヨシュアさんが居れば、何かと役に立ちそうだな。
「僕、実は俳優してましたので、【演技】するのは得意なんですよ?」
「なにっ!?俳優さんなのか?」
おや?この世界でも俳優は人気が高いのだろうか?ヨシュアさんの僕を見る目が、急に変わった気がした。
──ドッ…ゴオオオオオオオオンッ!!
「うわっ?!」
何かが爆破したような轟音が響き、建物が大きく揺れた。
「まぁ俺が、あの爺さんに唆されてユウトの事、期待しすぎたのが悪かったな。俳優さんとは知らなかったぜ。さっきは言い過ぎた…すまんな?」
「僕も、ヨシュアさんが居ないと今のところ、どうにもならないので、仲直りしましょう。」
商人と2.5次元俳優でどうにかなるか分からないが、とりあえずここも持ち前の演技力で乗り切ることにする。
「ああ、俺も…俳優さんが知り合いになってくれるなら、何でもするぜ!!まぁ…とりあえず、部屋から出てみようぜ?」
──ギィィィィッ…
能力鑑定に使用した部屋の扉を開けると、土煙が舞っており空も見えた。今まで屋根や外壁のあった場所が跡形なく消え失せている。
恐らく、この部屋は魔法か何かの特別な力で守られているようだ。
──ギャアアアアッ!!
──キャアアアア!!
様々な絶叫や悲鳴が、下の方から聞こえてくる。
「ヨシュアさん…これは、一体。」
「ほら…あれ、見ろよ?魔族が居るだろ?恐らく…アイツが、やったんだ。」
外壁の無くなった部分から、下を見渡すと先程まで大通りを行き交っていた、様々な種族たちが逃げ惑っている。よく見れば、綺麗に並んで建てられていた街並みは、まるで爆弾で爆撃を受けたように、激変していた。
「あの魔族、なんてことしやがる…。ナジーブが滅茶苦茶じゃねぇか…。」
「この街には…あの魔族に対抗できる戦力は居ないのですか?」
先程、門扉の前に居た武装した二人を思い出して、ヨシュアさんに問いかけた。
「悪魔や魔物レベルにしか、歯が立たないな…。あの爺さんなら戦えるレベルだったと思うが、逃げやがったからな…。まさか、魔王め…配下の魔族を投入してくるなんてな…。」
なるほど。と言うことは、先程の轟音で…既にあの二人はもう、お亡くなりになっているのかも知れない。それにしてもあのルエステとか言うお爺さんこそ、『期待外れの役立たず』という言葉が相応しいな。
「どうせこの街の皆んな、全滅するなら…。ちょっと…僕、ダメ元で【演技】スキル使ってきますね?」
「ユウト、何言ってんだ?!この部屋に居れば、最後まで生き残れるチャンスだって、あるかも知れないだろ?」
どこまで部屋が耐えれるか分からないので、まだ逃げれる道があるのなら留まるのは得策ではない。囲まれて集中砲火でも浴びたら、それこそ終わりだろう。
「まぁ、僕の散り際しかとご覧あれ!!」
「おい!!」
僕はヨシュアさんを背にして手を振ると、部屋から出ると一気に階段の所へと向かった。
────
やはり、僕が予想していた通りで、階段の材質は強固で多少のヒビや欠けは見られたが、崩壊しては居なかった。
それに比べて床に使われていた材質は見る影もなく、そこで大地震が起きたかのように、滅茶苦茶になっていた。
「お…お兄…さん。行っ…ては…ならん…。」
階段を駆け降りた僕の耳に、微かにクアラさんの声が聞こえた。
「クアラさん?」
「わ…たしに…構うで…ない…。早く…あの…部屋に…戻れ…。」
一階を見渡すが、あちこちで内壁や天井が崩れ落ちており、声は聞こえるのだが…肝心のクアラさんの姿が見当たらない。
「もう少しの辛抱ですから。クアラさん、絶対に死なないで下さいね?」
僕にはある考えがあった。
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