第2話 能力鑑定所にいこうか?
日時不明────
先程、中年男性と話している時、庭の先には石造りのような家が見えていたが、材質が気になっていた。中年男性に案内され街中へと向かう際、その見えていた家の傍を通ったのだが、使用されている材質については、石材と似た特徴を持っていた。ただし、ここは異世界なので断定は出来ない。
「ほら、ここがナジーブの大通りだ。どうだ?勇者様が居ない世界の割に、結構賑わって居るだろう?」
ナジーブとはこの街?村?の名前なのだろうか?中年男性の言う大通りに目をやると、恐らくこの世界に生きる様々な種族が、多く行き交っており、人間に似た種族はそれ程多くない印象を受けた。それも相まってか、多種多様な声が大通りには溢れ、非常に賑やかな雰囲気が漂う。
服装はと言えば、この中年男性のように簡素な布のような衣類を身に纏っているが、種族によっては、何かの革をなめしたような衣類を身に纏ったりと様々だ。
「そうですね。この世界は、色んな種族が居るのですね?」
「ああ。因みに、俺やお兄ちゃんみたいな人間は、この世界じゃ少数派種族に分類されてるからな?」
気のせいでは無かったようだ。
「それは、元々そうだったのですか?」
「この世界じゃ、人間の歴史は浅くてな?300年くらい前の事だ、さっきのお兄ちゃんみたいに、突然異世界から一人の若い女性が転移させられてきたのが始まりだ。」
「と言うことは…元々この世界には人間が居なかった訳ですか?」
「ああ、そう言うことになるな。しかも“始まりの異世界人”と呼ばれる女性だが、倒れていた場所が良くなくてな?そこの場所を仕切る種族の性奴隷にされてしまい、苦労したようだ。」
あー。よくある展開だな…。てことは、人間の家の庭に倒れていた僕は、相当ラッキーだったって事か?
「その女性はどうなったのですか?」
「数ヶ月後、別の地域に転移していた異世界人の男性に助けられ、二人は結ばれ子を成したようだ。性奴隷にされていた“始まりの異世界人”の女性だが、不幸中の幸いか、人間とこの世界の種族では相性が悪いようでな?その種族との間の子を成すことはなかったらしい。まぁ、そんな訳で…この俺も、異世界人同士の子孫なんだがな?」
成程、どうりでこの中年男性は親切な訳だ。この世界では、多種族との子が成しにくいので、異世界人の子孫や異世界人同士で結ばれてくって事か。
「さて、立ち話はそろそろ終わりにして、そろそろ能力鑑定所に行こうか?」
「はい。」
「まぁ、この大通りを少し先に進んだ、ほら!!お兄ちゃん、見えるか?あの建物がそうだ。」
そう言って中年男性は、大通りの少し先にある大きな建物を指差している。多分1分もかからない距離だ。
「見えますね。行きましょう!!」
────
沢山の種族が行き交う大通りを、中年男性に先導されながら何とか、能力鑑定所まで辿り着いた。
そこは、これまた石造りのような立派な建築で、高さは2〜3階程ありそうだ。幅も家屋が2軒ほど余裕で建てられる程だ。
入り口には木のような素材に金属のような素材を貼って補強した上部がアーチ型の門扉がついており、人間と思しき武装した男性が左右に配置されていた。この世界では珍しく、金属のような素材でできた兜と鎧の一式を身に纏っている。腰の辺りには、革製に見えるベルト状のもので、長剣だろうか鞘に入れられ括り付けられているのが分かる。
「どうした?ヨシュア。今日は何の用だい?」
一人の武装した男性が、中年男性の事をヨシュアと呼んだ。
「さっき、俺の庭に…異世界人の同志が倒れててなぁ?この…お兄ちゃんなんだが、能力鑑定を頼みたくてな?」
「何だって?!今月は、この地域多くないか?まぁいいか、じゃあ門を開けるから下がっててくれ。」
──カァン…カァン…
ヨシュアさんに応対していた武装した男性が、手に持った鐘のようなものを二度だけ打ち鳴らした。
──カァンカァンカァンカァン…
扉の向こう側から短い周期で四度、鐘のような音が聞こえてきた。
──ゴッ…ゴッ…ゴッ…ゴッ…ゴゴゴゴゴゴゴゴッ…
「じゃあ、ヨシュアとそこのお兄さん、中に入ってくれ。」
物凄い音と共に、両開きの門扉の左側だけがこちら側へと人が一人通れるくらいだけ、開いた。扉の厚さを見たが、軽く20センチを超える厚みがある。人間にとって、ここは余程の重要施設なのだろう。
「分かった!!ほら?お兄ちゃん!!早く入るぞ?」
「あ、はいっ!!」
何度もここへは来ている様子のヨシュアさんは、躊躇なく物々しいイメージの建物内部へと、開けられた門扉の隙間から入っていった。それに僕も続いた。
──ゴゴゴゴゴゴゴゴッ…ゴッ…ゴッ…ゴッ…ゴッ…
僕が門扉を抜けたか抜けないかのタイミングで、中から今開いている門扉を、閉めにかかり始めていた。建物内部に入って分かったのだが、門扉は一人の老齢の女性が唱える魔法で開閉をしているようだった。
「おや、お兄さん見ない顔だねぇ?」
つい先程まで魔法を唱えていた老齢女性に、僕は声をかけられた。
「ああ、クアラさん!!お兄ちゃんはさっき転移されてきたばかりの異世界人だ。」
ヨシュアさんが老齢女性のことをクアラさんと呼んだ。
「なんだ、そうだったのかい?じゃあ、お兄さんは能力鑑定に来たんだねぇ?」
「はい。ヨシュアさんに言われまして。」
「お兄さん、良い能力を授かっているといいねぇ?でも、過度な期待は禁物だよ?全ては因果応報、適材適所だからねぇ?神様は全て見ていらっしゃる。」
久しぶりに神様という言葉を聞いた。でも確かに、自分に与えられた使命があるとしたら、それを全うするまでだ。
「きっと、良い能力に決まってるさ!!こんな時期に転移されてくるくらいだからなぁ?」
前回の近所の家に転移してきた、特別な能力満載な女性の前例があるからだろうか?ヨシュアさんはかなり僕に期待している様子だ。そんなヨシュアさんの言葉を話半分で聞き流しながら、僕はこの建物の内部を見渡していた。
「おほん…っ!!ヨシュアさん?今日は、異世界人の能力鑑定をしに来たという事だが、それで宜しいかな?」
建物の内部の構造は、地球の色んな時代の様式が組み込まれており、どれ程の数の人間たちが、転移させられてきているのかが伺える。それに石造りの為、採光部からしか光が入ってこない為、かなり薄暗いかと思っていたが、魔法で明かりが灯されており、かなりの明るさがある。
因みに今、ヨシュアさんに話しかけていているのは、かなりの老齢男性のようだが、眼光鋭く背筋もピンとしていて、身なりも良さそうな素材でできたものを身に纏っている。
「はい!!ルエステ様、宜しくお願いします。」
「では、ヨシュアさん。異世界人を連れて私に着いてきたまえ。」
ルエステと呼ばれた老齢男性の後を、ヨシュアさんを先頭にして、僕は期待と不安が入り混じりながら、白い石材のような材質で出来た建物内部を進んでいくと、目の前に石段のようなL字のかね折れ階段が現れた。
ヨシュアさんはどんどん登っていってしまったが、僕はそっと足を階段の踏面へと乗せた。この建物の床に使われている、見栄え重視の大理石のような材質とは違い、御影石のような硬度の高い感触が伝わってきた。万一、何か起きても、この階段だけは残りそうだ。
「おーい?お兄ちゃん!!こっちだ!!」
「はい!!」
強度の確認も込めて、階段の踏面の上で跳んだり、踏みしめたりを繰り返していたら、ヨシュアさんに呼ばれてしまった。
本音を言えば、ヨシュアさんに勧められて来たものの、実はあまり気が進まないのだ。
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