第8話 禁術 4

 少女は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 激しい怒りと憎しみを込めた怨念の塊が、山の向こうへと消えていったはずだった。

 しかし、少女の心には違和感が残っていた。

 手応えがない。


 理性も将来も投げ捨てた、決死の、必殺の、持てるすべてを賭けた一撃が掻き消えた。

 そんな馬鹿な。世界は、どこまで理不尽を突きつけるのか。

 少女は膝を震わせて、空を仰いだ。

 神も奇跡もあるものか。

 第十階層禁術を防ぐ術など人類にはないはずだ。

 だから禁術なのに。だからすべてを賭けたのに。


「どうして……?」

 少女は呟き、震える手で顔を覆って嗚咽を漏らす。

 私は負けた。失った。奪われた。なにもかも。故郷も母も。復讐さえ。

 少女の顔を覆う両手は冷たく、萎んで、とても小さかった。


 ――許さない。

「母さん。母さん。お母さん……!!」

 少女は叫び声を上げ、激しい悲しみと怒りが渦巻く感情に押し流されていく。

 瞳が赤く染まり、狂気じみた表情が浮かび上がった。


「許さない……絶対に許さない! お前のすべてを、全部、ぜんぶ、なにもかもを滅ぼしてやる!」

 少女の声は震えながらも、決意に満ちていた。


「私は……私は復讐するんだ! どんな犠牲を払っても……必ず! 必ず!」

 少女の膝が崩れ、体がふらふらと揺れる。

 次第にバランスを崩し、地面に倒れ込む様子は、かつての強大な存在とは思えないほど脆弱だった。

 怨念を込めた魔力が消え、少女の体はその反動で疲弊しきっていた。


 倒れた少女は、地面に顔を埋めるように横たわり、呼吸もままならない状態だった。

 涙が少女の頬を伝い、荒い息遣いが少女の小さな体を震わせていた。

「どうして、こんなことに――」

 涙を嗚咽が止まらない。


――こんな。こんな。こんな……理不尽があってなるものか!

 恨みも憎しみも、全てが無力感に変わりつつあった。

 そのまま、少女の意識は次第に薄れていく。

 少女の体は、深い疲労と絶望の中で無力に横たわる。

 その周囲には悲壮な静寂がいつまでも残響していた。

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